独学で上達できず時間ばかり消耗しているサーファーへ。

発見と学びがリアル体験できる、ワクワクのベースキャンプ!
SURF SHOPがプライスレスなわけ。

Text: Yoshito Takatori Illustration: Jonas Claesson

ドアを開け、一歩足を踏み入れるとSEX WAX、そしてJOVAN MUSK……独特の甘〜い香りが鼻腔をくすぐる。見たこともない、カラフルでキラキラ光る美しいモノ達に溢れた場所は、まるで外国にいるような、他所にはない特別な空間だった。その場所で待ち受ける金色のロングヘアーにまったく不釣り合いな、屈強な体格の店員達は皆揃って威圧的。Tシャツが眩しく感じるくらいに真っ黒に日焼けした様は、Made in USAファッションブームの中にあって最も日本人離れした人種に思えた。そんな彼等の目に品定めをされる自分にとって、当時のあのドアに手を掛けるのは、実際にはとても勇気がいり、敷居の高さの半端無さは今では考えられない程だった。まさに一見さんお断り、そのものだった。

そんな強烈な異文化の台頭、目に見える一般的な世の中への影響力……様々な変化をもたらしたのはショートボードの登場、1970年代からスタートしたサーフィンの本格的なブームがことの起こりだと言われる。そんな流れの中で、サーフショップはその文化の中心に常に位置していたと思う。海の側に住む人ならば、近所に存在するお店に行くというのは自然なことだったのかも知れない。しかしながら、海に行く! 一般人ならそれだけでもイベントになり得る、東京在住の所謂シティサーファーだった私にとって、サーフショップ訪問は先輩に連れて行ってもらい初めて経験した、その後の私の人生を左右する今思えば一大事件だった。そんなサーフショップ、今一度その魅力と役割について考えてみたい。

現在はネットによるショッピングが、ほぼ生活すべてのジャンルで主流になりつつあると言っても過言ではない。確かにとても簡単で便利。気が付けば私も何気なくポチッ! と注文している。ところがサーフィンブームの初期は、海外からの雑誌を中心にショップにいる人達からの情報、そして道具の調達というルートしかなかったこともあり、どうやってもその道を避けて通ることはできなかった。そんな時代を経験した世代から、果たしてサーフィンに関してはどうだろうか? 近年議論がなされてきた。

「若者がネットでボードを買い、西風の強い日、河口に入って流された事件がありました。ワックスも塗ってなかったみたいです。ショップに行かない今時の若者、考えさせられる出来事でした……」

これは最近SNSで、日本のサーフィン界の重鎮である大先輩、川井幹雄さんから寄せられたコメント。なんともシャレにならないエピソードだった。

大ブームから約40年を経た今、何事もイージーな時代にはなったけれど、本質的に海はまったく変わっていない。常に青く美しく、時に優しそうに見えるが、そこは紛れもなく大自然。バーチャルなTVゲームの世界とはまったく違う、厳しい環境なのである。同じく海のスポーツであるスキューバダイビングにおいては、ライセンス制度があり、きちんとしたレッスンを受けた上で初めて楽しむことができる。自分に合った正しい道具の選び方、サーフィン上達への技の習得以前に、基本を学ぶ重要な場所がサーフショップなのである。そんなショップの近くにあるポイント、その沖のピークには当然ながらローカルと、ショップのスタッフやお客さんが陣取り、彼等を中心に波乗りが成り立っている。それは世界中何処へ行っても変わらない、万国共通の秩序である。

まずひとつ、自分のお気に入りのサーフショップとホームブレイクを持ち、この秩序を身体で理解することが大切なことだ。それが実はサーフィン上達にはもっとも近道である。同じ場所でいつもの顔見知りと和気あいあいとリラックスしながら練習すれば、競争が激しく再現性の低いサーフゲレンデでも一定の成果が得られるはずだ。波情報でオススメの場所は必ずと言っていいほど混んでいるし、よく見ると秩序の中心の人達の回し乗りであることが分かる。仮にホーム以外のポイントでサーフィンする場合でも、ホームで秩序を理解する過程で生まれる、その場にいるサーファーへのリスペクトという気持ち、それが備わっていればある程度の楽しみをその場所で分け与えてもらえる、その可能性を実感できる。

サーフィンで重要なこと、実はこのことが一番だと私は思う。会員権を持ち、毎週末をホームコースで存分にプレイを堪能するゴルファーと考え方は同じ。クラブライフは技術の習得はもちろんのことだが、友人も増え自身の人生を一層豊かにしてくれる。さらに年配のゴルファーはたいがいが教えたがり屋ばかり。サーフショップのオーナー達も同様にフレッシュマンには熱心にサーフィン道を伝授してくれる。

最近ではリッター数でサーフボードのサイジングをイメージさせるようになった。マルチフィンが可能にさせた幅広で極端に短いモノや、浮力の感触が異なるEPS等…それまでの表記では理解しづらい部分も出てきたからだろう。大部分がハンドシェイプではなく、大量生産でやってきたウインドサーフィンのボードは、実は遥か昔からリッター表記だった。リッター表記による画一的なプロダクションボードがネットによるサーフボード販売に拍車をかけるが、やはりこうした場面でも扱っているプロショップのスタッフによる評価、生の声こそが一番信頼できる。なんたってその道で飯を食っている人達には敵わない。業界での動き、道具に関する情報はやはり餅は餅屋と考えるべきだ。

独学で上達できず時間ばかり消耗しているサーファーはもちろんだが、キャリアを積んだ上級者の皆さんも、朝一からトンボ帰りばかりではモッタイナイ。家路に急ぎ、つい素通りしてしまうお気に入りのポイント近くに存在する、訪れたことのないサーフショップのドアを開けてみるのはいかがかな。今なお敷居の高い印象の拭えない店構えも多いが、そういうショップこそワクワクするベースキャンプだったりする。それまでなんとなく顔見知りでも、つい遠慮してしまうローカル達と親しくなるチャンスが待っているかも知れない。必ず必要となるワックス一個が入館料と思えば安いもんだ。ネットではリンクできない心の通った友人との触れ合い、素晴らしい週末のクラブライフが手に入ると思う。

Enjoy your SURF CLUB life!

鷹取義人
1960年生まれの東京サーファー。ハワイやカリフォルニア・サンディエゴでサーフィン中心の生活を送ったのち、現在は地元吉祥寺に帰還し安住。家族と仕事、大好きな旅をバランスさせる、ナイスライド人生を謳歌している。

サーフショップ情報はコチラヘ!!