【東京オリンピック】大原洋人が語る、2020年の前の新しいゴール。

オリンピック本番で気負いたくないから、先にCT入りを実現したい。

TOWARD2020 #3 大原洋人インタビュー

大原洋人-波乗りジャパン-オリンピックインタビューの写真
Photo: Shuji Izumo

Text: Junji Uchida Portrait: Shuji Izumo

 

延べで50万人もの観客が来場するUSオープンの2015年大会で日の丸を掲げた大原洋人。CT選手でも欲しい世界最大規模のサーフィンコンテストを制した波乗りジャパンの精鋭が、QSシリーズをフルにまわり出して今年で5年になる。

ワールドジュニアで3位になって、プライムを含めて全部のQSのワイルドカードをもらった1年目。その前にも、たまに海外で好成績を残せていたから、「このままプライムでトントン拍子に勝っていけるんだろうな」と考えていました。でも、ふたを開けてみたらプライムで1回戦を勝てたのは1つだけ。プライムがめちゃくちゃデカかったというのもあって、全部1回戦負けで。QS6000はクオーターの前まで行けたのもありますが。あとは、たまに日本の試合に出て、ちょっと勝っていたぐらい。QSランクで100番以内には収まったんですけど。1年目は、それまでの甘い考えじゃ到底勝てないことを思い知らされた年。甘く考えているつもりはなかったけど、終わってみて、考えが甘かったことを学びました。

 

1回戦を勝ち抜けなかった理由、それは完全に努力不足だと振り返る。サーフィンの技量はもちろん、戦略に秀でてもいなかった。人より優れているものがない分、努力しないと勝てない状況。にもかかわらず周囲と同等、あるいはそれ以下。トレーニングなどまったくせず、ただ好きなときにだけサーフィンして過ごした結果だと痛感する。

改善すべきことが山積みなのを肌で感じました。それでトレーナーをつけて、トレーニングを始めて。そうして、「段々良くなっているんだろうな」という頃にUSオープンで優勝。ガラッと変えることもなく、何となく優勝したから、「これでいいんだ」って思い込んでしまったんです。結果、翌年の3年目もあまり勝てずにランクダウン。40位ぐらい下がりました。それでまた、「何かが違うな」と。コーチの(糟谷)修自さんや、他に見てもらっていた人からは、「波に乗れれば勝てるのに」と言われるし、自分でもそう思う節はあった。でも、やっぱり技量を上げないと無理、技術を含めてすべて教わらないとダメだと思って、マーティン・ダンにコーチをお願いすることにしたんです。

応援してくれるスポンサーが増えてからは、コーチを試合に連れていけるようになりました。それまではコーチをつけることはできても、同行させることはできなくて。めちゃくちゃプラスです。去年は2戦だけでしたけど、今年は5〜6戦。QS10000だけでも連れていければ。

でも、コーチからは、コーチがついてくれば勝てるというのは望ましくないと教わっているんです。最後は自分ひとりでやりぬく。自分で戦略を作って、考えて試合に臨んで、勝てるサーファーにならなければダメだと。

大原洋人-ポルトガル-サーフィンの写真
ポルトガルの波を激しく切り裂く。海外転戦中もトレーニング・サーフは欠かさない。Photo: Shuji Izumo

スコアが出るか出ないかは、コーチをどれだけ信用しているかだという洋人。マーティンから言われたことを素直に聞き入れ、できるように努めるだけ。さらに、サーフコーチだけでなく、メンタルコーチもつけている。

USオープンで優勝した2015年のはじめから、いまもお願いしています。メンタルも併せてトレーニングをはじめたことがきっかけになって、勝ちにつながったというのはありますね。追い込まれたときや、試合の前、試合の前日にどういう思いがあるか。ある感情が原因で負けにつながっているとしたら、それが襲ってきたときにどう考えるのがいいかを学んでいます。日頃からどういう心得でいればネガティブな心情にならずに済むのか教わったり。試合前に不安が出るより出ないほうが、もちろんいいから。

 

■人の言葉がきっかけでメンタルをやられてしまう弱みを自覚。

洋人のウィークポイントは何か?

たとえば試合の前の言われたくないタイミングで、「うわっ、次、結構ハードなヒートじゃん」とか言われるとネガティブになって、その思いをラインナップにまで持っていってしまうんです。「いや、別にハードでもハードじゃなくてもいいんだけど、なんでいま、なんでこの人、そういうことを言うんだろう?」、「言わなくても良かったんじゃない?」、「ほんとうにハードなのかな?」とか。試合前に無駄な思いを起こさせる種を蒔く人は、レベルの高いQSの試合ではいないんですよね。選手として思っているなら、普通は「いや、お前だったら次は余裕だよ」となるんです。跳ね除けられればいいんでしょうけどね。だから最近は、音楽を聴いているフリしてヘッドホンをつけて、しゃべりかけられないようにしたり、試合前に一緒にいると、引きずることを言いそうな人はすみ分けしたり。良くない影響が出そうな場合には、結構そうしています。

 

SNSによる批判的な声も気にしてしまうのか?

いや、それは結構うれしいです。また自分のことを書いてくれているなって(笑)。いつもFacebookとかに載せてくれる人がいて、それを見た人から「また載せられいていたよ」とか言われるとチェックして。「なんで自分のこと、毎回こんなに書いてくれるんだろう」とか(笑)。ちょっとムカつくけど、気にはなりません。「は〜い、わかりました」と。

 

逆に、強みは何か?

2015年USオープンの大原洋人の写真。
オーディエンスが多いほど自分のサーフィンができる。その強みからUSオープン優勝という快挙を遂げた。Photo: VANS US Open / LALLANDE

観客が多ければ多いほど、自分のパフォーマンスができるところですかね。知っている人、知らない人にかかわらず。USオープンのファイナルは最高でした。『なんじゃ、この人の多さは!』みたいな。ピア(さん橋)を見ても人しかいない、ビーチを見ても人しかいない。(対戦相手だった)タナー・ヘンダリクソンの応援が半分だとしても、半分はオレか! 「ヤッバいな」とか(笑)。ギャラリーが多いのは好きですね。観客が多いなかでやっている試合をみると、いいなと思います。

 

■ハーレー本社の目に留まるよう、結果を残しにカリフォルニアへ。

ところで、洋人はカリフォルニアで成長してきた印象がある。コンペティションに進むのであればオーストラリアという選択もあったはずだ。

ハーレー本社へのアピールというのもあって、カリフォルニアをベースに活動し始めたんです。当時からハーレーは、グロムを育てるプログラムに積極的で。みんなでコーチングを受けに行ったり、どこかの国へ撮影に行ったり、しょっちゅうしていたんですよ。でも、自分と同い年ぐらいの子がやっているんですけど、「えっ、絶対にこの子たちより自分のほうがうまいのに、なんで呼ばないの?」という感じでした。聞いてみたら、自分のことを知らないから呼ぶに呼べない、と。呼んだところで下手だったらあれだから、もちろん呼びませんよね。それならアメリカの試合で結果を出して、勝手に目に留まるようになれば呼んでくれるかなと思って。最初はそんな感じでした。自分がカリフォルニアに行っているときは、ハーレージャパンから自分がいることを伝えてもらって。で、アメリカのチームマネージャーと会って話すようになって、結果を残すようになってきたら、「じゃあ本社に来いよ」と。本社でみんなを紹介してもらってからは、キャンプとかコーチング、ロードトリップにもたくさん呼んでもらえるようになりました。

NSSAに出始めたのは14歳か15歳の頃。過去を見てもNSSAはたくさんのCT選手が戦っていたし、18歳までクラスがあるから、自分よりちょっと上の世代の人とも戦える。自分と同じ世代でCTに上がっていく人が出るとも考えたし。そして、段々ハーレーへのアピール以上に、そういう人たちと一緒に世界へ出ていくという目的が大きくなって、アメリカの試合に出るようになりました。

以前は親と波を見て、「あそこがいいんじゃない?」とか、言われたところでやっていました。でも、カリフォルニアでは普段はコーチもいないし、そのなかで全部ひとりで決めて結果を出さなければいけない。そのときに、すごく考えるようになりました。自分よりうまいサーファーと戦うようになって、「ああ、こういう戦い方をしなければいけないかも」とか。たくさん試合をできたから、そのぶん余計に考えられるようになったというのもあるかな。

いま岩見天獅がカリフォルニアに行っていて、全世界のうまいキッズたちと一緒にサーフランチに行っています。そういうのに呼ばれているのも、NSSAで結果を残したからだろうし。自分がNSSAに出たことを真似てくれて、それがいいほうにつながったのであればうれしいですね。

 

大原洋人-サーフィン-トレーニングの写真。
ヒート直前のギリギリまで身体を動かす。そこにはトップアスリート然とした風格さえ伺える。Photo: WSL / MASUREL

 

■ウェイブプールでのオリンピックはありえない。

ところで、オリンピック会場がウェイブプールという案が浮上しているが。

自分的にはウェイブプールは絶対にないと思っています。一宮の人たちが誘致するのに、どれだけのことをしてきたかを見ているから。逆に、それをどう覆すのかなと。何も知らない人は波で決めたり、そのほうが見やすいとか、全員にチャンスがあるとか言うけど、それではサーフィンの魅力がなくなってしまうというのもあります。でも、やっぱりそれ以上に、まわりの人たちが頑張って一宮にしたわけだから。自分は絶対一宮。もちろんウェイブプールでサーフィンはしたいですけどね。めちゃくちゃ良さそうだから。

サーフランチはまだ体験したことがありません。今年のUSオープンのときにサーフランチに行かないか、と(五十嵐)カノアが誘ってくれました。「ちょうどCTの練習で行く機会がある。サーフランチの社長も日本人を連れてこいって言っていたから、一緒に行こうよ」と。

 

ここで、少しライトな質問を連投してみた。

◉好きな食べ物は?
「お米と肉。ハワイとか日本食が多い場所は持って行かないけど、試合には確実に持っていく」

◉好きな音楽は?
「以前は細かくセットリストを完璧につくっていた。毎回1曲目はこの人、2曲目はこの人。最後はこれというふうに。歌い方とか声とか。テンポとかも全然違う曲を入れたりして。でも、いまは毎回同じ曲というのが嫌になった。日本人の曲、いいなと思うJ-POPならなんでも好き」

◉好きなタレントは?
「長谷川潤。きれいな感じ。インスタをフォローしていて、生活を見ててもすごいと思う」

◉几帳面orルーズ?
「旅先の荷物はきれいに揃える。服とか、きれいじゃないと嫌。行きだけでなく、帰りもきれいじゃないとダメ。でも、人に見られない部分はめちゃくちゃ汚い。部屋はぐちゃぐちゃ。部屋は汚くてもベッドで寝転がったり。いる時間が短いから、なんでもいいかな」

◉尊敬する人は?
「中田英寿、長友佑都。あと錦織圭も少し。尊敬したいんだけど、たまにラケットを壊しちゃったりするから「なにやってんだ」とも思う」

◉コンペ好きor嫌い?
「大好き。時間に縛られるなかで点を出さなきゃいけないあのドキドキ感。試合前にドキドキする集中感。サッカーをやっていたから、もともと競争するのは好き。もちろん勝つこと、いまはトップと戦うことも多いし、勝てたら嬉しい」

◉少しほっそりした?
「おととしの10月からトレーナーをつけている。体脂肪率を減らして締まった筋肉に変えている。試合の1ヶ月前とかから低カロリーで高タンパクな食事を摂るようにしている。普段しているトレーニングとサーフィンだけ。それだけで最初5kg体重が落ちた。サーフィンもだいぶ軽くなった。そこからいま、筋肉を段々増やそうとしている」

◉ブラジリアンストームについて。
「『やっぱりブラジルはうまいな』とは少しも思わない。それ以外の国のサーファーもみんなうまいし、勝てる技術を持っている。たまたま勝ち進んだのがブラジリアンだっただけ。回っている人数が多いのかなと思う。ガブリエル・メディナ、フィリッペ・トレド、イタロ・フェレイラはずば抜けているが、全員じゃない。平均してうまい選手が多いというのはある。最近は国技のようになっている。このランキングで、なんで毎回出られるんだろうという人もいる。前まではブラジリアン=お金持ってない、超ハングリー。でも、最近はいいホテル泊まって、コーチとかトレーナーをバンバン連れて来る選手もたくさんいる。サーフィンを取り巻く経済環境が変わってきているんだと思う」

 

大原洋人-鴨川-サーフィンの写真。
今年の春に鴨川で行われた強化合宿でのフリーサーフィン。エアリバースの精度の高さは驚愕モノだった。Photo: Shuji Izumo

 

■感動を与えられるアスリートになりたい。

さて、CT入りを短期的なゴールに掲げてきた洋人。サーフィンがオリンピック種目になったことで計画が変わった。

以前はQSで経験を積んで、23歳とか24歳でCTに入るという流れで考えていました。そのレベルに達したときに上がる、普通のCT選手と同じように。でも、いまはオリンピック前にクオリファイしたい。同じ舞台に立っていたほうが、オリンピック本番で気負いしないというものあるだろうし。

オリンピックはゴールのひとつです。最初はただの大きいイベントみたいに感じていたんですけど、平昌オリンピックを見て、やっていないスポーツを見ても感動するのってすごいな、と。そういう人になれる可能性があるなら、なりたいという気持ちは強いです。

まだまだ努力が足りていないし、他にもやらなければいけないことがたくさんある。けれど、とにかく試合に勝つしかありません。それで言うと試合のときの判断力。その時その場所で正しい判断が正確にできるようになれば、もっと勝てると思います。ムラサキ湘南オープンもそれが敗因。プライオリティを使って良くない波に乗って、最後に相手にプライオリティを譲ってしまって、そこにいい波がきて逆転されてしまった。乗るべきじゃなかったという判断ミス。南アフリカのQSでは、自分がスルーした波でジェレミー・フローレスに点を追加されて、そこからリズムが狂ってきたり。体力の限界がくると悪い判断してしまう自分もいます。けれど、その時々に合った戦略、ヒートの組み立て方は絶対にある。正しい判断ができればコンスタントに勝てると思うし、CTにも入ることができる。オリンピックも出られるだろうし。

それでは中長期、たとえば5年後はどうなっていると思うか。

今年で22歳。27歳のときには絶対にCTに入っていると思います。自分の目標というか、思い描く5年後は、海外へは毎回ビジネスクラスで行って、いいクルマに乗っていて、できればそれまでに結婚していたい。お金をもらっていそうなCT選手はみんなビジネスクラスですから。そういう生活を送っていたい。

大原洋人-ハワイ-サーフィンの写真
住むのは遠慮したいと笑みを見せた、ハワイでのショット。バレルのなかに佇むスタイルはとてもフォトジェニック。Photo: Redbull / Trevor Moran

 

■リタイア後の生活水準を落とさないためにも、基盤をつくりはじめている。

セカンドキャリアについてはどう考えているのだろう。

サーフィンを辞めてからも生活していかないと。やめてからの人生のほうが長いですよね。さっき話した、27歳のときに思い描く生活ができていたとしても、サーフィンを辞めたら落ちぶれるというか、下がっていく気がします。稼げなくなって、生活水準を落とすのは嫌だから。自分としては、選手でいるあいだにセカンドビジネスではないけど、そういうのも徐々に始めていて。海外の選手もよくやっていますよね。修自さんを通じてつながった人や、自分の知り合いの富裕な人たちが、「こういうことしたほうがいいんじゃない」というアドバイスもしてくれて。辞める頃にちょっとした生活ができる基盤があれば、自分のやりたいことがもっとできるんじゃないかな、と。

将来もやっぱり一宮に住んでいたい。東京はいいかな(笑)。めっちゃ稼ぐことができたら、東京と千葉に家を持ちたいですけど。海外ですか? どうですかね・・・。ハワイは遠慮しておきます(笑)。でもカリフォルニアなら考えるかも。それまでに、いまはとにかくサーフィンを頑張るしかないです。

大原洋人-ポートレイト-波乗りジャパンの写真。
洋人のシグネチャーポーズ。ピースサインというだけで人柄が伝わってくる。Photo: Shuji Izumo
 
【プロフィール】

おおはらひろと●1996年11月14生まれ。千葉県長生郡出身。父親の影響から、8歳でサーフィンをはじめる。13歳でNSAの全日本で優勝。さらに、U16の年間チャンピオンも獲得してアマチュアの頂点に。同年、JPSAのプロ資格を取得し、WSLでもU16のチャンピオンになった。2012年、米国NSSAのカリフォルニア選手権で、日本人として初優勝。その年のWQS湘南オープンでは最年少記録を樹立。翌2013年のWSL世界ジュニアU20で日本人初となる3位入賞を果たし、QSプライムの出場権を得た。そして2015年、USオープンで、日本人として初めての優勝を掲げ、その名を世界に知らしめた。その後も2017年のQS6000オーストラリア・オープン3位をはじめ好調を維持。また、2020年の東京オリンピックは地元・一宮で開催されることもあり、出場のみならずメダル獲得の期待が高まっている。

 

CTクオリファーとオリンピック出場に向けて励んでいる大原洋人。まもなくはじまるUSオープンにも、もちろん出場。日の丸を背負って邁進している日本のエースを応援しよう!

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