イズキール・ラウが明かす、ジョンジョン戦略の真相。
イズキール・ラウがリップカールプロ・ベルズビーチで、対ジョンジョン・フローレンスに講じた戦略に世界中のメディアがいまなお焦点を当てている。英雄に対して打って出た奇策の意図や、海のなかでの経緯はどういうものだったのか。サーフジャーナリストのマーカス・サンダースがイズキールに直に訊いた。
Text: Marcus Sanders
あのあとロッカールームでジョンと握手したよ。
ぼくは彼と若い頃、ジュニア選手権やNSSA学連で数え切れないほど戦った。
当時だって、いつも今回みたいなテンションだった。
ジョンはいつも内側を取るために戦う戦闘家だったよ。
誰だって、みんな勝ちたいんだ。
Q. ヒートに向かう前、頭のなかに考えはあったの?
基本的には早々にプレッシャーをかけてしまって、先に優位になってしまおうと考えていた。それが第1のゴール。ああいう大きなヒートでは、大物が口火を切って優位に進めていくケースが多いんだ。それをストップさせるのさ。雪だるま式にスコアを伸ばしていって、プライオリティの下で何もできなくしていく勝ちパターンを阻止するためにね。とくに、あのときのベルズは超スローだったから、最初に優位に立つことがなおさら重要だった。
Q. どういう状況だったか話してもらえる?
ヒートが始まる前に、自分が勝負する位置を固めたんだ。彼はそれより早くパドルアウトしていて、何本か波に乗っていた。ぼくが初めて乗ったのは、ヒートでの1本目。ぼくは彼の内側にいたんだ。でも、彼は自分の位置が気に食わなかったんだと思う。パドリングしながら寄ってきた。だけど、ぼくは動きたくなかった。自分が勝負すると決めた場所に彼を入れるわけはいかない。そこを守って居続けた。そこに1本目の波が来て、その波を手したんだ。
Q. それがヒートの勝因?
重要なポイントだけど、ぼくは2本波を手にして、そのどちらもよかった。そして、彼は手にしなかった。また、彼は最初の波でボードから落ちてしまった。それは重大なミスだし、ぼくに対してプラスにも作用する。それがぼくの勝因だと思う。彼が1本目で失敗したことが、ぼくの2本目のライドにつながった。
Q. 君たち2人はキッズの頃から多くのヒートで対戦してきたんだよね?
ぼくらは若い頃、ジュニア選手権やNSSA学連で数え切れないほど戦ってきた。当時だって、いつも今回みたいなテンションだった。ジョンはいつも内側を取るために戦う戦闘家だったよ。みんなと同じようにね。みんな勝ちたいんだ。15分の6人ヒートで、プライオリティルールもない。みんなそれが、どういうことかわかっている。だけど今回ちょっと違うのは、ぼくと彼にとって、初めてのマンオンマンヒートだったところ。
Q. 一線を超えてしまったと思う? それとも、すべてはルール規定以内なのかな?
絶対的にルール内だよ。彼がぼくの決めた位置に来ようとしたことを阻止しただけ。ぼくは妥協したくない。ぼくの決めた場所に、あとから彼が来たんだ。
Q. 沖でなにか言葉は交わしたの?
いや、ひと言も。ただ超近くに座っていただけ。彼が入ろうとしてきたスペースにいただけだよ。
Q. 今回の作戦に対して、多くの人が意見しているけど。
ハハハ。そうだね。いろんな議論が飛び交っている。いずれにせよ、いいことだよ。人間は意見を持っているもの。だから議論を観察したがるし、そこから何かを感じ取る。いいことか、悪いことなのかをね。
Q. ソーシャルメディアを通じて、君から何か返答したり伝えたりはしないの?
いや、しないね。人の流れにまかせるよ。ぼくからは反応しない。みんなはぼくに反応するけど。
Q. あのあとジョンジョンとは話しはしたの?
ロッカールームで握手したよ。ヒートが終わって、海のなかで何が起きていたのかを知らせるために。陸のうえでは、ぼくはよかった。彼はかなりがっかりしていたけど。当然だけどね。だから、その後はそっとしておいた。ぼくは誰とも敵対したくない。一線は超えないよ。
Q. 今回をきっかけに、他のCTサーファーたちがより攻撃的になっていくと思う?
ぼくはすでにスタンダードだと思っているよ。みんなジョンにはやらないだけで。大騒ぎになってしまうからね。ぼくは誰に対してもやるけど。ラウンド1でも、オーウェン(ライト)とぼくは同じようにやりあっていた。誰も話題にしないだけで。オーウェンはぼくに対して優位に立ち、最初の波を手にした。その戦いに破れたら、ヒートに負けることになる。
Q. いろんな戦略が作用しているように聞こえるね。
ものすごい多くのシナリオがあるよ。先手を打って自制を失わせることはひとつに過ぎない。ぼくは絶対的に先手有利に進めたい。でも、他にもたくさんの戦略を敷いている。たとえばラウンド3のウインキーポップでは、いろんな場所から波を得られた。だからぼくは、事前にインサイドを捨ててヒートに臨んだ。選択と集中だね。状況にもよるけど、どのぐらいの本数の波が来て、どれにほんとうの適正があるのか。
Q. 最初のプライオリティをコイン・トスで決めるっていうのはどう?
最悪だと思う。コンペティションの意味を削ぐよね。コインフリップにするなら1ヒートひとりにするのと同じだ。なぜ2人で海に入っているのだと思う? スケート競技のように、15分をひとりで演技することだってできるのに。2本乗って、評点して。人は相手と戦う競争を見たいんだよ。どっちが最高の波をつかみ、どっちが最高のサーフィンをして、どっちがいい成績になるのかをね。
Q. マーガレット・リバーへの自信のほどは……
もちろんあるよ。不甲斐ない成績にケリを付けないと。スナッパーは25位。ベルズビーチは少し良かった。ジョンジョンやメディナがラウンド2や3という報道はないだろうね。キミたちメディアは後半のラウンドで彼らについて触れたいだろうから、ぼくは最初のヒートで関わっていく。けれど、このあいだのような、自分がヒートに勝つ必要があったとかいう内容ではないよ。ぼくは誰にも負けるわけにはいかない。あのヒートの熱量を自分が勝つことにすべて集中させて、今年の残りの期間を自分にとって有利にしてみせる。
1993年11月23日生まれ。ホームタウンはハワイ・ホノルル。身長186cm、体重92kg。ジョンジョン・フロ―レンスやキアヌ・エイシン、カリッサ・ムーアなどと同時期に頭角を現わす。ハワイ大学でフットボール選手として活躍し、現在は高校フットボールでコーチを務める父レオナルドから、スポーツ競技における戦略を伝授。が、CTへのクオリファイは苦難の道だった。ジョンジョン・フローレンスがCT入りした2011年のQSランクは115位。2013年にフル参戦して36位に上げるも、2014年には再び100位圏外に。2015年、クオリファイできる10位以内に届かない11位だったが、旧知のカノア五十嵐がダブルクオリファイしたおかげでCT入りを達成。ルーキーイヤーの2017年は、ベルズビーチ戦で唯一の一桁台となる3位をマークしたものの、あとはすべて13位以下。QSで10位になり、かろうじてCTからの脱落は阻止した。CT3年目となる今年、ベルズで見せたヒート戦略にも磨きをかけ、上位進出を目指している。