【WSL】まさかのダークホースが制したウルワツCT。

夢が叶うことを、ブラジルの思わぬ伏兵が証明。

ニックネームはカンフー・パンダ。見た目的にはコロコロしているウィリアン・カルドソだが、破壊力は猛獣級。Photo: WSL / SLOANE
CTツアーの低年齢化が進むなか、32歳のツアールーキーとして初優勝を遂げたウィリアン。長きにわたりクオリファイに挑み続けているQSサーファーたちにも自信を与えたに違いない。Photo: WSL / CESTARI

Text: Junji Uchida

ウィリアン・カルドソ。今年で32歳という遅咲きのツアールーキーがまさかの優勝を手にした。ニックネームは“カンフー・パンダ”。大木の幹のような太い脚で低重心を保ちながら、ウルワツのリップをバックサイドで粉砕。豪快なトラックを描くと激しいスプレーが飛び散った。アークのサイズはとても大きく、飛翔する白煙の粒も見るからに大きく、かけられたら痛そうだ。苦節12年。誰よりも長いQSへのチャレンジで今季のクオリファイを手にした。今季がダメだったら身を引くつもりだったという。そのために家族や仲間は、資金面だけでなく精神的にも支えてくれた。

「心臓が破裂しそうだよ」とカルドソ。「クオーターファイナルを勝利したあとに好感触を得ることができ、優勝できるかもと考えるようになった。決勝の終盤でジュリアン(ウィルソン)がいい波を掴んだから心配になったけどさ。でも、かなりの高得点が必要だったし、そこまで届かなかった。このときが来るまで、本当に一生懸命やってきた。何年にもわたってサポートしてくれたみんなに感謝している」

シャークアタックが懸念され中止となったマーガレット・リバー戦をカバーする格好で開催されたウルワツCT。バリを象徴するレフトハンダーの波は、夜明けから日没まで続く長いマラソンのようだった。が、1日を通して4〜6フィートサイズでパンプし続けた。

クリーンなレフトの波が美しいウルワツ。インサイドのレーストラックが最大の見せ場になる。Photo: WSL / SLOANE

そんななか、ウィリアンは終始高得点をマークし続けた。ワールドタイトル獲得に闘志を燃やすジュリアンとの決勝でも、その強さは変わらなかった。ジュリアンは決勝のあいだ、何本もの波を忙しく掴みまくった。が、カンフー・パンダはきっちりセットの波をつかみ15.57をスコア。追随を許さなかった。

「今日は本当に長い1日だった。もう燃え尽きたよ」とジュリアン。「先週のクラマスではいい結果が残せなかった。だから今回、ギアを切り替えることができたことに満足している。準優勝という順位にもね。現時点ではランキングトップに戻ることはあまり意識していない。もちろん返り咲いたのはいいことだよ。だけど、まだ今季の半分が終わったばかり。まだまだたくさんのヒートが残っている。家に帰って妻と娘に会えることにエキサイトしている。Jベイ戦に向けてリセットするよ」

ウィリアンにハイスコアを許したのちに懸命に波をキャッチするも、追いつくことができなかったジュリアン。が、ランキングはトップに返り咲いた。Photo: WSL / SLOANE

クラマスに続いてウルワツでも3位をマークしたマイキー。来季のCTフル参戦にまた一歩近づいた。Photo: WSL / SLOANE

この試合で特筆すべきはライト三兄弟の切り札、マイキー・ライトがクラマス戦に続いて3位をマークしたこと。ランキングが7位にジャンプアップし、オーウェン、タイラーとともにCTを参戦するというシナリオが、ついに来季実現しそうな勢いだ。

ウィメンズの勝者もダークホースfromリユニオン。

ハードなトレーニングが好きだというジョアン。男子顔負けのパワーハックは見るものを魅了した。Photo: WSL / CESTARI

「もう気がおかしくなりそう」とジョアン・ディファイ。「ツアーのみんなは優勝に値するサーフィンをする。それが今日、私にその順番が回ってきた。バリのパーフェクトな波で優勝できるなんて・・・夢が叶った。タティアナ(ウェストン・ウェブ)は今日、とてもいいサーフィンをしてた。私は彼女がすべての波で8点台をスコアするんじゃないかと予想してたほど。最終的に私に必要だったのは6点。そして、最後の最後に波が入ってきた。僅差になったとは思った。素晴らしい波だったけどちょっとバンピー。ターンのときにふらついてしまった。けれど、幸運にも逆転できるだけのスコアになった」

隣でガイドをしていたパートナーも驚愕。嬉しい瞬間を間近でシェアしたジョアン。Photo: WSL / SLOANE

ウィリアン同様、ジョアンもダークホースというべき存在。とはいえ2015年のUSオープン、さらには2016年のフィジー戦で優勝をしている。マダガスカルとモーリシャスのあいだに浮かぶリユニオン島が地元。スポンサーが確保できずに苦労してきた。が、島の英雄ジェレミー・フローレスや、彼女のポテンシャルを信じる応援者たちが献身的に支えてCT入りを実現させた。

ところでジョアンのノーズに貼ってあるステッカーに、日本語があることをご存知だろうか。“極度乾燥しなさい”の文字が目を引く〈SUPERDRY SURF CO(極度乾燥しなさい)〉という英国のアパレルメーカーで、かつて来日した創業者が日本にインスパイアされて起こしたブランドだとか。〈SUPERDRY〉の商標からか、日本ではウェブサイトも見れない状況だが、海外ではデビッド・ベッカムなどセレブも着るほど人気が高いそうだ。

ジョアンのスポンサー〈SUPERDRY SURF CO(極度乾燥しなさい)〉の ロゴ。日本語をモチーフにしたデザインには、やはり親近感がわいてしまう。

話をもとに戻そう。ジョアンと決勝を戦ったのは、今季からブラジル代表として参戦しているタティアナ・ウェストン・ウェブ。攻撃的なアプローチはやはりハーフ・ブラジリアンといったところ。彼女はバリ・レッグで目を見張るような活躍を見せた。6度のワールドチャンピオン、ステファニー・ギルモアのことをウルワツではセミファイナルで、クラマスではクォーターファイナルで打ち負かした。今回の準優勝で、彼女はランキング3位に付けた。

残り時間1分前までリードしていたタティアナ。最後の最後での大逆転に失望するも、すでに気持ちを切り替えJベイを見ている。Photo: WSL / SLOANE

「このイベントは調子良かった。優勝できると思っていた」とタティアナ。「最後の1分で逆転負けになったことは胸が痛い。とくに、あんな僅差だったから。でも、これがコンペティション。いまは今年うまくいってることに対してすごく幸せ。コーチ、サーフボード、サポートしてくれるみんな が素晴らしいから」

ベルズではタティアナを破っているものの、その後はタティアナにヤラレ気味のステフ。ただ、ランキングトップのレイキーとの差が55ptにまで縮まり、7度目を狙うには好位置に付けた。Photo: WSL / CESTARI

セミファイナルはオーストラリア出身の2人のワールドタイトルホルダーが進出した。6度の獲得実績があるステファニー・ギルモアと、やはり2度頂点に立ったことのあるタイラー・ライトだ。2人はともに3位で敗退。この結果、ギルモアはカレントリーダーのレイキー・ピーターソンにわずか55ポイントにまで詰め寄った。

マーガレット・リバー・プロのトロフィーが授与された。左からウィリアン・カルドソ、ジュリアン・ウィルソン、ジョアン・ディファイ、タティアナ・ウェストン・ウェブ。Photo: WSL / CESTARI

メンズはこのウルワツCTで、ベルズ戦以降4戦連続でブラジリアンが優勝。ランキングもTOP5のうち4人がブラジリアンと、相変わらずストームが勢いを増している。次戦は昨年、フィリッペ・トレドが歴史的なダブル・アリーウープを成功させたJベイ戦。稀有のライトブレイクを舞台にどんなドラマが生まれるのか期待したい。

 

 RESULTS / RANKING
【ウルワツCT】2018年WSL-CT第5戦 / バリ・ウルワツ
 
MEN
優勝:ウィリアン・カルドソ(BRA)
2位:ジュリアン・ウィルソン(AUS) 
3位:コロへ・アンディーノ(USA)
   マイキー・ライト(AUS)
5位:コナー・コフィン(USA)
   ジョーディ・スミス(ZAF)
   ガブリエル・メディナ(BRA)
   フィリッペ・トレド(BRA)

 
WOMEN
優勝:ジョアン・ディファイ(FRA)
2位:タティアナ・ウェストン・ウェブ(BRA) 
3位:ステファニー・ギルモア(AUS)
   タイラー・ライト(AUS)
5位:カリッサ・ムーア(HAW)
   ブロンテ・マコーレイ(AUS)
   ニッキー・バン・ダイク(AUS)
   レイキー・ピーターソン(USA)

 
 
【ランキング】ウルワツCT終了時
 
MEN
1位:ジュリアン・ウィルソン(AUS)27,215 pts
2位:フィリッペ・トレド(BRA)25,900 pts
3位:イタロ・フェレイラ(BRA)24,995 pts
4位:ガブリエル・メディナ(BRA)20,940 pts
5位:ウィリアン・カルドソ(BRA) 19,740 pts

 
WOMEN
1位:レイキー・ピーターソン(USA)35,630 pts
2位:ステファニー・ギルモア(AUS)35,575 pts
3位:タティアナ・ウェストン・ウェブ(BRA) 29,160 pts
4位:タイラー・ライト(AUS)24,800 pts
5位:ジョアン・ディファイ(FRA)22,305 pts