【WSL】足を酷使して善戦、五十嵐カノアが弾けたJベイを振り返る。

「自分の本当のサーフィンをみんなに見せたかった。結果はボーナス」五十嵐カノア

五十嵐カノアの2018年CTツアー・Jベイ戦でのサーフィン写真
文字通り、嵐のごとく猛威を奮った背番号・五十。Photo: WSL / TOSTEE

Text: Junji Uchida

 

“Go BIG or Go HOME”
大胆にやれ、さもなければ帰れ。
これがオレの戦略さ。

–フィリッペ・トレド

今回で7度目のファイナル進出。その戦績は7勝0敗=勝率10割を誇るフィリッペ・トレドが昨年に続き、2018年の〈コロナ・プロ・オープン・Jベイ〉を連覇。ランキングトップに躍り出た。

エネルギーの塊。ヒートがはじまりラインナップに着くと、精悍(せいかん)な面持ちで水面を水を叩き飛ばしながら、自らを鼓舞する。スモールウェイブの巧者として名を馳せたブラジルのコブラ=トレドは、悔しくも日本代表、五十嵐カノアとのセミファイナルでも冴えていた。

無念にもそれまでのサーフィンが出しきれず、3位にとどまったカノア。が、それまでのプロセスはいつにも増して際立っていた。ボトムターンは対戦相手の2倍はあろうほど距離が長く、低重心で深い。その後、クリティカルセクションやカービングゾーン、レーストラック・コーナー、エンディング・ステージまでを、どこまでもタイトに攻め立てた。ボルテージが上がり、流れのあったカノアの戦いを振り返ってみたい。

 

カノアのJベイ戦タイムライン。

【R1】ケリー・スレーター&イタロ・フェレイラ戦

Facebookライブを通じて初めて配信されたラウンド1。あろうことか、カノアのヒートがはじまる直前に映像がシャットダウン。ケリー・スレーターの復帰ヒートだったこともあり、“ひどいね”マークが渦巻いている。米国向けの配信チャネルは途切れたものの、スペイン語チャネルは生存。スペイン語の実況のなか、コメント欄には英語によるFワードが飛び交う異様な状態だった。

そんななか、カノアはケリーに加え、これまた厄介なバックサイド・フリーフォール職人のイタロ・フェレイラと対戦。5’3”のサイマティクをクアッド・セッティングにして参戦したケリーは、4フィートの風の入ったJベイの波に苦戦。バタつくフェイスをドライブするも、レールが短すぎてコントロールするのが難しそうに見える。しかも、エンドセクションに向けて巻いてくるチューブが超高速で、抜けて来れない。イタロも前半はワイプアウトが続き、精彩を欠いた。後半にかけて2本を手堅くまとめたが、6点台+5点台のミッドスコア。

それに対しカノアは、クリーンで伸びのあるボトムターンから特大のカービングターンを連発。手足の長さにより美しさが際立つ、スタイリッシュなアプローチで2人を圧倒。希少なバレルも逃すことなくメイクしてみせ、1位通過を果たした。

ケリー・スレーターの2018年CTツアー・Jベイ戦でのサーフィン写真
久々にコンテストシーンに姿を現したケリー・スレーター。4フィートサイズの風でガタつくフェイスを、5’3″のクアッドでコントロールすることに苦戦していた。Photo: WSL / Cestari

【R3】ウィリアン・カルドソ戦

そしてラウンド3。ついに火がつきカノア劇場がはじまる。ラウンド3の対戦相手はウルワツCTで優勝した凶暴なカンフー・パンダ、ウィリアン・カルドソ。波のフェイスはクリーンで、極上のブレイクを見せている。が、ウィリアンは持ち前の豪快なパワーサーフィンを見せることができず、5点台に届くライドは1本もなし。

一方のカノアはウェイブチョイスも冴え、オープンフェイスをフル活用しながら、しなやかなパフォーマンスを披露。1本目のライドで8.33をスコア、3本目では、きわどいブロウテールからのランディングをスリリングに決めて7.00をマーク。凶暴パンダを一蹴した。このヒートのウィリアンの絵素材が見当たらないので、本ウェブサイトでおなじみの〈SURF ROAST〉のインスタでカンベン願いたい。ちなみにこれは、みんなを震撼させたウルワツCT直後に投稿されたもの。

【R4】ガブリエル・メディナ&グリフィン・コラピント戦

続くラウンド4でカノアが迎え撃つのは、ブラジリアンストームを牽引するガブリエル・メディナと、アメリカ期待の星、グリフィン・コラピント。解説のジョー・タペルはコラピントのことを、ニュースタイル・パーコと称する。が、自分的にはイマイチしっくり来ない。みなさんはどう思われるだろうか。

ヒート序盤はメディナが先導、1本目でフローターからのエアードロップで8.50をマーク。2本目も3発のマニューバーを決めて8.00を叩き出した。が、いつものメディナに比べて動きが重く、正直絶好調とは言い難い。続くセットの波でカノアがスパーク。グラブ・ダウンカーブからのレイバック・ハック、切れ味鋭いカービングターンを連発して、まずは8.37。次にキャッチした波も、ブレイクを読み切り美しく調和しながら、バリエーション豊かなマニューバーで見るものを魅了。エアーリバースでフィニッシュすると大歓声が沸いた。キレッキレのこのライドが今戦のシングル・ハイエストとなる9.67と評点され、トータル18.04ポイントでヒートをリード。

が、その次の波をテイクオフしたコラピントも、伸びのあるビッグカーブ&過激なフローターで9.50をスコア。ヒートを面白くしてくれる。ところが、その後Jベイのステージがいきなり休眠モード。コラピントが9.50を出した時点で残り時間は20分。とにかく波に乗りたいコラピントだったが、メディナがプライオリティを持っていたこともあり、2人よりずっと奥にポジショニングしチャンスをうかがう。しかし、誰も波をつかむことはなく、時間だけが刻一刻と過ぎていく。そして、業を煮やしたコラピントが賭けに出る。残り30秒、プライオリティを持つメディナとバチバチの波取り合戦を繰り広げ、無理やりテイクオフ。が、もちろんそれは妨害行為。可愛い顔をしてインターフェアの黒帯師範のメディナに、インターフェアで真っ向勝負とは大した器だ。リードを守りきったカノアは、無事クオーターファイナルに駒を進めた。

五十嵐カノアの2018年CT・Jベイ戦の写真
前投稿の再掲。2018年のJベイ戦で9.67を叩き出した五十嵐カノア。Photo: WSL / CESTARI(画像をクリックするとWSLの動画サイトにジャンプします)

【QF】セバスチャン・ジーツ戦

クオーターファイナルのカノアの相手は、世界でもっとも遊び心のあるサーファーと言われていた頃に比べて成熟した、シーバスことセバスチャン・ジーツ。このときのJベイは比較的スローなブレイク。シーバスにとってこのコンディションはパワー不足で物足りないのか、アプローチを仕掛けるもことごとく失敗。まるでワックスの塗りが甘くスリップしているようだ。仕舞いにはFacebookライブのコメント欄に、「シーバスは酒に酔ってるのだろうか?」とまで書き込まれる始末。自滅していった感の強い戦いだった。

対してカノアは、波に乗るごとにスコアをビルドアップ。1本目は相変わらずスムーズかつパンチの効いたマニューバーを盛り込み、ビッグフローターを成功させて6.50。2本目はブロウテール・リバースを含む洗練されたワザを仕掛けまくり7.17。波のチョイスも良かった3本目は、シャープなレイバック・ハック&巨大なフローターでアピールし8.00と、まさにうなぎのぼり。Facebookライブのコメ欄には“Go Kanoa!”の文字と“超いいね”マークが乱舞。あまりのオンファイアぶりに、「このまま優勝するのでは?」と期待が高まった。

シーバスことセバスチャン・ジーツの2018年Jベイ戦の写真
カラテ・ムーブで応戦するシーバス。が、流れのあるカノアに圧倒されたのか、明らかにリズムが狂っていた。Photo: WSL / CESTARI
五十嵐カノアの2018年のCTツアーJベイ戦のサーフィン写真。
ブロウテール・リバースを途中に入れた2本目のライディングは7.17をスコア。波を掴むごとにボルテージが上がっていった。Photo: WSL / Cestari

【QF】フィリッペ・トレド戦

そして冒頭の、セミファイナルに話は戻る。トレドは前ヒートのメディナとの戦いの際、最後の1本で9.33をマーク。その余韻を残したままラインナップに着いている。が、最初にテイクオフしたのはカノアだった。ややインサイドよりに移動していたカノアは、ブレイクを確かめるようにハイラインを走って加速。グラッシーな波のパワーゾーンを確実に攻め立て、最後はフリーフォール・フローターをメイク、6.17でスタートを切った。

が、その後トレドのショーが幕を開ける。最初のライドからすでに圧巻だった。マニューバー1つひとつがエネルギッシュで、しかもワザとワザのあいだに隙がなく常にフルスロットル。ドヤ顔でフィニッシュしたパフォーマンスに、いきなり9.57がついてしまった。カノアは2本目にテイクオフするも、スコアが出ないと踏んだのか早めにプルアウト。そしてトレドが2本目をキャッチ。波のパワーポケットを全力で蹴り込むと、トレドの体格からは想像できないほどの激しいスプレーが1発、2発と舞い上がる。さらに、小気味いいフローターでカールセクションを抜け、エンドセクションでビッグフローターを披露。9.33がスコアされた。コンボに追い込まれたカノアは、途中8.00のエクセレントを叩き出すもコンボから抜け出せない。トレドは3本目でも8.40をスコアし、手のつけられない状態になっている。そして無常にも終了のホーンが鳴り、カノア劇場の幕は閉じた。

セミファイナルという結果はとても大きい。今季のトップ10入りのゴールにつながればいいな。でも、結果ではなく、このコンテストで実践できた自分のサーフィンに対してすごくハッピーなんだ。覚えてるかな。ラウンド1終了後のビーチインタビューで、このコンテストはぼくにとって、結果ではなく自分のサーフィンに対して特別だと言ったんだ。ぼくはみんなに、自分がどんなサーフィンができるのかを本当に見せたかった。ターンのとき、うなりをエクストラに込めた。そう見えたことを望むし、そう感じてもいる。もう足は疲れ果てて、痙攣してる。でも、自分がいつもやりたいと思ってたサーフィンができることを実感。セミファイナルはそれができなくてヘコんでるし、残念。フィリッペに譲ることになってしまったからね。ときに一生懸命やりすぎてしまうことがあるんだ。戦略を自分に強いてしまったと思う。でも、そこから学ぶこともあって、持ち帰る収穫もある。前に進むよ。このコンテストの全般にストークしてる。結果はただのボーナスだよ。

–五十嵐カノア

 

【決勝】コブラ対グリズリー。

トレドのファイナルの対戦相手は、陸の上ではテディベア、海のなかではグリズリーのウェイド・カーマイケル。奇しくもこれは今季第3戦のリオ・イベント同じ組み合わせだ。そのときのコブラ対グリズリーのアニマル決戦では、圧倒的な強さを示したコブラ=トレドが雄叫びを上げた。

ちなみにカーマイケルは、この日最初のクオーターファイナルを勝ち上がる際、サメの出現による中断を体験。獰猛なグリズリーから怯えるテディベアに姿を変えた。

さて、今回こそリベンジを果たしたいカーマイケル。が、トレドに8.50を出されて分が悪い状況に。波が本来のJベイに比べて柔らかめなこともあって、トレドが全身バネのような身体を駆使して俊敏な動きを見せる一方、鋼鉄のようなカーマイケルはいつもの迫力が出せずにいる。それでも渾身の力を振り絞り、逆転目指してフルチャージ。目の前をドルフィンするコブラを轢き殺さんばかりの位置で波を破壊し、8.00をマーク。

が、エネルギーとアドレナリンが噴出する火の着いたコブラを仕留めることはできず、トレドが圧倒的な強さを見せつけ、昨年に続いてJベイを制した。

連勝はいつも思い描いてた夢だった。去年のJベイでの優勝以降、こんなスペシャルなことはない。しかも、去年のようなすごくいい波にも恵まれたし。ありがとう、神様。ありがとう、ジーザス。家族とサポートしてくれているみんなに感謝したい。恵みを授かっているという想いでいっぱいだ。

–フィリッペ・トレド

  • 初めてのFacebookライブによる混乱。
  • ケリー・スレーターの復帰。
  • ジョエル・パーキンソンの引退表明。
  • パーコに釣られてのケリーの引退表明&撤回。
  • ちょいちょい顔を出したサメによる中断。

などなど、いろんなファクトがあった今大会。カノアの初優勝はおあずけになってしまったが、ワクワクさせてくれたことに感謝。次戦のタヒチ・イベントの前にはホームでのUSオープンがあることだし、昨年に続く2連覇を大いに期待したい。

 

 RESULTS / RANKING
【コロナ・オープン・Jベイ】2018年WSL-CT第6戦 / 南アフリカ・Jベイ
 
MEN
優勝:フィリッペ・トレド(BRA)
2位:ウェイド・カーマイケル(AUS) 
3位:五十嵐カノア(JPN)
   ジョーディ・スミス(ZAF)
5位:コナー・コフィン(USA)
   ジュリアン・ウィルソン(AUS) 
   ガブリエル・メディナ(BRA)
   セバスチャン・ジーツ(HAW) 

 
【ランキング】コロナ・オープン・Jベイ終了時
 
1位:フィリッペ・トレド(BRA)35,900 pts
2位:ジュリアン・ウィルソン(AUS)31,960 pts
3位:ガブリエル・メディナ(BRA)25,685 pts
4位:イタロ・フェレイラ(BRA)25,415 pts
5位:ジョーディ・スミス(BRA) 21,910 pts