【WSL】17歳の才覚、安室丈がWSイベント初勝利!〈ムラサキ湘南オープン〉

戦略とスタミナ、気力を駆使して大金星!

ムラサキ湘南オープン2018のチャンピオン安室丈の写真
自身初となるQSイベントの優勝にストークする安室丈。

Text: Junji Uchida Photo: Shuji Izumo

どれだけ広いスペースを使うのか。安室丈のパフォーマンスエリアは、例えて言うならビーチをAポイント、Bポイント、Cポイントの3会場に分けて進行するコンテストで、3つすべての会場をフル活用するような戦い方だった。

ムラサキ湘南オープン2018年チャンピオン安室丈のライディング写真
ライド&パドルを繰り返すマラソンのような戦略が奏功、QSイベント初優勝を遂げた安室丈。

台風8号からのうねりが最終日まで持続した今年のムラサキ湘南オープン。ファイナルデイのサイズは概ねムネちょいだが、潮の満ち引きによっては頭ほどのセットが入るヒートも。ピークも30分ごとに変わるような状況で、前のヒートを参考にラインナップについても、別のところでいい波が割れてしまうトリッキーなコンディション。

ロータイドは9:30分。その頃になると、ヘッドクオーター正面以上に辻堂方面のピークが良くなり、フリーサーファーたちがエンジョイしているところで選手はパドルアウト。解説MCはフリーサーファーに移動をお願いする。また、とくに丈だが、その辻堂寄りのピークでライドを終えると、今度はヘッドクオーター正面をスルーして、ずっと鵠沼よりにラインナップ。解説MCは、そのピークで波待ちするフリーサーファーたちにも移動を請うことになった(安積先輩、お疲れ様です)。その距離、現地で取材する報道陣のあいだでは、200mとか400mとか、てんでバラバラな見立てだったものの、要はカレントのあるなか、そのぐらい離れたピーク間をパドルで行き来する展開だった。

加藤嵐や村上舜などの強者が次々敗退した大会2日目。そんななか、湘南オープンでの優勝歴のある大原洋人や新井洋人は順調にラウンドアップ。クオーターファイナルに駒を進めた。

 

7年目を迎えたアクションスポーツの夏フェス。

ムラサキ湘南オープン2018のヘッドクオーターの写真
灼熱の舞台を支える心臓部、大会ヘッドクオーター。

さて、ここで今一度ムラサキ湘南オープンについておさらいしておこう。2012年から開催されてきたこのコンテストは今年で7回目。“The Surf City”カリフォルニア・ハンティントンビーチのUSオープンを彷彿させる、日本最大級のアクションスポーツの祭典だ。ショートボードだけでなく、ロングボードやボディボード、スケートボードやBMXなど、カリフォルニアライクなカテゴリーが一堂に会す夏フェスといったところ。

ムラサキ湘南オープン歴代優勝者の表
これまで6戦行われてきたムラサキ湘南オープン。海外勢の優勝は2人のみで、あとは日本人選手が独占。©SurfClub

ただ、ご存知のように湘南でのサーフィン大会は、波のコンディションがリスキー。過去にもプアーな波で開催されたことも多いが、2013年の大野修聖が優勝した年は、台風からのグランドスウェルに恵まれ、ものすごい盛り上がりを見せた。コンスタントさでは引けはとるものの、うねりが入ったときの湘南の波質は極上。相模湾の奥まったところに位置している分、粗削りのうねりはきれいにシェイプされて、美しいブレイクを見せる。今年は久々にいい波が押し寄せ、選手たちの実力が発揮できるステージになった。

 

湘南オープン優勝歴を持つダブル洋人、それぞれセミで敗退。

ムラサキ湘南オープン2018年での大原洋人のエアリバースの写真
安定感のある大原洋人のエアーリバース。が、まさかの逆転劇が起こりファイナル進出はならなかった。
ムラサキ湘南オープン2018でのジョーダン・ロウラーのサーフィン写真
激しいアプローチを4連打。最後の最後でひっくり返したジョーダン・ローラー。

2012年の第1回大会で優勝をしている大原洋人。クオーターのセミファイナルの対戦相手は、オーストラリアの伝統あるサーフビーチ、ノースナラビーン出身のグーフィーフッター、ジョーダン・ロウラー。古くはテリー・フィッツジェラルドやサイモン・アンダーソン、デリック・ハインド、ダミアン・ハードマン、その後はクリス・デビッドソンやデイビー・キャッスルを輩出してきたハードコアカルチャーが根付くシーンで育ってきたジョーダン。そのスタイルは、オーストラリア流を受け継ぐパワフルさに秀でている。

一方の洋人については、もはや説明する必要もないだろう。ワールドチャンピオンでも欲しいUSオープンでの優勝を機に、その名を一気に世界に広めた、波乗りジャパンを最前線で率いるビッグネームだ。体重を落としたからか、以前より動きが一層シャープに。胸が水面に着きそうなほど低い体勢でエネルギーをタメにタメて、クリティカルセクションで一気に爆発させる。そのアプローチは言わずもがなワールドクラス。そのパフォーマンスがセミファイナルでも冴え、テールエンドを高く突き上げながらも完璧にコントロールするエアリバースを交えてヒートを牽引。3本目に6.25、4本目に8.50を叩き出し、ジョーダンのニードスコアを8.10と引き離した。そして、誰もが勝利を確信していたヒート間際、予期せぬ逆転劇が発生。形の良いレギュラーを掴んだジョーダンが、バックサイドで鋭いリッピングを4連打。8.50がスコアされ、洋人に反撃の時間を与えることなくゲームセット。サッカーワールドカップのベルギー戦のごときガッカリな空気に会場は静まり返った。

ムラサキ湘南オープンでの大原洋人の写真
安室丈のコーチを務める河村海沙が優勝有力候補だった大原洋人も支援。

「今回は終盤に、ジョーダンに運がありました。このヒートから、ポジティブな学びもあります」と洋人。「戦いに続けることによる疲労や、プライオリティの活用法などを克服しないと。次の試合では優先権を駆使したい。今月末のUSオープンに向けて、ゲームプランを調整していきます」

 

続くセミファイナル・ラウンド2は、2016年の湘南オープンの覇者、新井洋人と、昨年のISA世界ジュニアの金メダリストで今年のWSL世界プロジュニア準優勝の若きエース、安室丈。

オーストラリア・レノックスヘッド仕込みの流麗かつスピーディなサーフィンが持ち味の新井洋人。日本では南房総でサーフィンすることが多いが、鵠沼も子供の頃から慣れ親しんだ場所。コンペ大国で磨いた勝利のノウハウ、世界を転戦してきた経験値を武器に、辻堂よりのピークに狙いを定めてパドルアウトしていく。

一方の安室丈も、やはり辻堂寄りにセットアップ。確かにこの時間帯は、ヘッドクオーター正面より形のいい波がブレイクしている。2人とも1本目、2本目でそれぞれ5点台と6点台をスコア。合計11.75と並んでいるが、丈の6.50に対して洋人は6.10と、トップスコアは丈のほうが高得点を出している。

そしてヒート終盤、丈は辻堂よりのピークからヘッドクオーター正面を過ぎ去り、はるか鵠沼よりのピークまで移動。そこに入ってきた形の良いレギュラーの波にテイクオフすると、次々現れるヒッティングスポットでクリティカルなアプローチを連発。インサイドまで見せ場を作ったそのライドは7.65と評価され、ファイナル進出を実現した。

ムラサキ湘南オープンの新井洋人の写真
ムラサキ湘南オープンの新井洋人

「子供の頃から鵠沼の海岸線でサーフィンしているので、ここの波は親しみがあります」と洋人。「今日のコンディションはとても面白かったんだけど、今季は負けが続いてしまってます。残るシーズン後半に向けて、やっとファイターになれた気がする。CTに本気でクオリファイしたいと思ってるし、そのためには今年、ランキングを上げることが必須。次のビッグイベントではより良いパフォーマンスをする必要があります」

 

有言実行を遂げた丈の、今回の戦略とは?

ムラサキ湘南オープンでの安室丈の写真
ヒートを終え、応援団の歓声の応える安室丈。

ファイナル開始前の選手紹介で、丈は「勝ちます」と勝利宣言。焼けた砂はビーサンの隙から入ってくるだけ熱いほど。にもかかわらず、素足でビーチを駆け抜けていった。

2人がパドルアウトするのは、やはり辻堂よりのピーク。開始直後、2人は激しいパドルバトルを展開。陸の上では穏やかな、四国のスローマインドあふれる自然児といった丈が、ハングリーなアスリートに豹変している。

ファーストライドはジョーダンだった。グーフィーの波を掴むとスピードをグイグイ引き上げ、エンドセクションでエアリバース。が、着地に失敗。対して丈はレギュラーを攻め、カービングターンを入れつつインサイドで攻め立てた。が、こちらも失敗。しかし、中盤が評価されたのだろう5.00がついた。丈は2本目で3.85すると、ジョーダンが5.10を叩き出す。そして、またもや丈は、鵠沼寄りのピークに移動。が、潮が上げてきているからか、それまで5分サイクルで入ってきていたセットがまったく入って来ない。そこに入ってきたセットがアウトで割れ、スープからテイクオフした丈が4.90をマーク。ジョーダンは4.90を叩き出したが、それでも届かない。そして優先権を持つ丈が、遥か離れたジョーダン目掛けてパドルを開始。辻堂寄りに逃げるジョーダン、それを追いかける丈。ついに追いつきジョーダンをロック。終了のホーンを待つまでのあいだ、2人はお互いを沖で称え合いエンディングを迎えた。

ムラサキ湘南オープンのファイナリストの写真
海のなかではバチバチだったものの、表彰台では穏やかな笑顔。優勝の安室丈と準優勝のジョーダン・ロウラー。

 

足がパンパンでヤバかったです。最後のパドルバックは気力で頑張りました。やっと優勝することができた。すごく自信がついたし、勝てるんだなと思いました。

最初に右に行って、相手の奥を取って、そこで1本決める。そしてプライオリティがなくなったら左側でサーフィンする。この戦略は、鵠沼ローカルでもあるコーチの(河村)海沙君によるもの。海外の選手と戦ってきて、そこで自信がつきました。でも、サーフィン的にはまだまだ勝ててないと思います。

次はUSオープン。QS10000だから、そんなに簡単に勝てないとは思うけどがんばります。

–安室丈

ムラサキ湘南オープン2018の優勝トロフィーを持つ安室丈の写真
Congrats Joe!

ショートボードイベントは終わったが、真夏の祭典はまだまだ続く。アクションスポーツならではのハイテンションな高揚感に浸りたい人はぜひ。スケジュールは下記サイトから確認できます。

ムラサキ湘南オープン特設サイトこちら

 

 RESULTS / RANKING
【ムラサキ湘南オープン】2018年WSL-QS1500 / 湘南・鵠沼
 
MEN
優勝:安室丈(JPN)
2位:ジョーダン・ロウラー(AUS)
3位:大原洋人(JPN)
   新井洋人(JPN)
5位:ハーレー・ロス(AUS)
   佐藤魁(JPN)
   タイ・ワトソン(AUS)
   堀越力(JPN)