白い稲妻、最後の閃光。
Text: Junji Uchida
世界最速のサーフィンをする“白い稲妻”として名を馳せ、3度のワールドタイトルを獲得したミック・ファニング。その英雄の引退試合、リップカールプロ・ベルズビーチの決勝を前に、ケリー・スレーターがインスタを更新。足のケガにより不参戦を余儀なくされているもうひとりのカリスマは、ひとひねりした投稿が多い。
いま、やっていることがあるなら手を止めて、#CheersMickに飛んで彼のCT生活最後のヒートを見て欲しい。WSLのアプリかワールドサーフリーグのサイトにいますぐ行こう。もうすぐパドルアウトだ! ぼくはこんな感じでミックと半々のセルフィー状態だけど……。イタロ・フェレイラはクレイジーなライドをしているけど、ツアーでの優勝実績はない。もしミックが勝てば、彼はぼくとマーク・リチャーズが保持するベルズでの最多優勝記録を追い抜くことになる。マジでミックが勝つことを強く望んでいるし、(ランキングリーダーだけが着る)イエロージャージで引退して、シークレットの“ラフススネーク”(動画はこちら)に連れて行って欲しい。いまはステファニー・ギルモアとタティアナ・ウエストン・ウェブのファイナルを放映しているけど、波がパンピングしているよ
ノーズには“The Search”のステッカーが鎮座。スタイルの教祖トム・カレンがコンテストから退き、見果てぬ波を追い求める“The Searcher”として活動しはじめた頃がオーバーラップしてくる。トムはレインボウカラーのリップカールロゴからThe Searchロゴに変え、再びシーンに戻ってきた。ミックは自分だけが貼ることを許されたブラックステッカーを後進たちに引き継ぎ、引退試合の途中でThe Searchに張り替え、鮮烈なデビューを飾った思い出のベルズに臨んだ。
理想の筋書きに加熱するコロシアム。
先日の記事にも書いたように、ヘッドジャッジが代わって評価基準も刷新された。よりクリティカルなポジションを過激に攻め立て、レールを深く入れた高難易のマニューバーに加点するというクライテリアは、波とシンクロするスタイリッシュなサーフィンを一蹴。ジョーディ・スミスやジョエル・パーキンソンなどのスタイルマスターのスコアは伸びず、早々に敗退してしまった。
セバスチャン・ジーツやイズキール・ラウ、ミッシェル・ボーレズらは、ありったけの力で金槌を振りかざし、波のフェイスを叩き壊すようなカービングターンでハイスコアをマーク。
パット・ガダスカスやジョンジョン・フローレンスたちは、クリティカル・ポケットで激しいレイバック・ハックに挑むなど、リスキーなアプローチをしてみせた。が、同じポジションですでに身体が陸側に向いている=上半身の可動が少なくて済むバックハンダー、すなわちグーフィーのほうが返しやすいこともあって、オーウェン・ライトやガブリエル・メディナなどが順調にラウンドアップ。
しかし、1人抜きん出ていたのはイタロ・フェレイラ。他のサーファーがフェイスと戦っているのに対し、イタロはクリティカル・ポジションを含む一連ブレイクのすべてを過激かつフルスロットル状態のまま、プレーニングしながら駆け抜けていく。しかも、ともすれば靭帯を伸ばしかねないリスキーなフリーフォールに果敢に挑み、ほぼ完璧にコントロール。ハイスコアを出すたびにドヤ顔でイタロ・ダンスを披露するようすは、サッカー王国ブラジルのゴールパフォーマンスさながらだった。
片や今大会の主役のミックは、ホワイトライトニング=白い稲妻の異名を取るアイコニック・マニューバーを連発。そのひとつごとに歓声が沸き、さらに会場のスクリーンに映し出されたリプレイでも声がこだまするほど、ベルズビーチはミック劇場・最終章に向けてヒートアップしていた。
スタイルと風格に秀でたステフが勝利。
ミックのラスト・ショーを前に、ウイメンズの決勝ヒートが行われた。ファイナリストは6度のワールドチャンプ、ステファニー・ギルモアvsタティアナ・ウエストン・ウェブ。奇しくもメンズと同じく、レジェンドのレギュラーフッター対、次世代を担うグーフィーフッターの対決だ。
タティアナはイタロ同様、クリティカル・セクション目がけて果敢にアプローチ。ハーフ・ブラジリアンの血統に加え、ジャッジ基準を順守し高いハードルを越えようとする姿勢は、今後さらに強いアスリートになっていく未来を予想させる。
一方のステファニーは激しさのなかにも流麗さを備えた、別格のサーフィンを見せつけた。身長178cmの均整の取れた身体で描くスタイリッシュなパフォーマンスでヒートを牽引。対してタティアナも、「これが私のスタイル」とクリティカル・サーフィンで応戦している。
ステファニーは1本目と3本目で7ポイント台をスコア。タティアナは3本目に6.40を出したものの、バックアップは3.33に留まっていて、逆転には7.77ポイントが必要という厳しい局面。が、残り6分を切ったところで優先権を持つタティアナは波をつかむと1発目でフリーフォールを決め、フィニッシュでワインドアップ=頭より高い位置にまでボードをリードし、スムーズに返した。が、7.37ポイントとわずかに届かない。
残り1分、逆転には6.80が必要。と、そこへセットが入り、優先権を持つステファニーがスルーした波をつかむとタティアナは1発目にストレートアップで当て込み、2発目はクリティカルなフローター、さらにエンドセクションでワインドアップに挑み、ノーミスでフィニッシュしてみせた。次の波が来ると見立てていたステファニーの読みも虚しく、そのままゲームセット。ポイントコールを待つあいだ曇った表情をしていたが、勝利を告げられた途端いつものハッピー・ギルモアに戻った。
後進の涙を包み込む英雄然とした最終章。
ベルズでのライディングで最高の瞬間は、ボトムターンしたときに目の前に広がる光景を見たときなんだ。あまりにも完璧なキャンバスに、「クソ、この波にいったいどんなマニューバーを描けって言うんだよ」って感動するのさ。
その一方で、インサイドで弾みのあるパフォーマンスをするのは難しい。最後の最後の1秒前まで、どのターンをするのが正解なのか決められないんだ。
—ミック・ファニング
ベルズの波に乗るには、膨大な時間を費やすことが必要だ。ただターンするだけなのに、それが難しいんだ。ラインナップしているように見えるときでも、正しいセクションを取り続けて行くのは容易くない。
—ジョエル・パーキンソン
ファイナルはこれらの言葉を見事に再現したようなコンディションだった。セットが入れば大忙し。が、それ以外はスローペース。たまに入ってくるビッグセットは沖で割れてしまうので、ラインナップポジションを誤るといい波には乗れない。
ジョエルが言うように、ベルズを乗れるようになるには時間を注ぐ必要がある。タティアナもそうだが、ベルズ歴の浅いイタロには運も味方している。
残り20分を切った時点で、2人のスコアは共に5ポイント足らず。が、しかし、残り17分に迫ろうというタイミングで攻防戦が始まった。口火を切ったのは優先権を持つイタロ。セットの1本目をつかむと「よっしゃ!」とばかりにストレートアップ。フリーフォールを成功させるもバランスを崩し、なんとか体制を立て直してフィニッシュ。が、その奥ではミックが猛烈な勢いでカーブを描いている。観客のアドレナリンは一気に吹き出し、ものすごい歓声が上げている。2発、3発とトラックをえぐり、インサイドセクションでストールすると、突然加速しはじめたと思いきや“ファニング・ザ・ファイア!”。コンペ生活最後のエクストラとなる8.10ポイントを叩き出した。
イタロが逆転するには、わずか5.11ポイントでオッケーの状態。バックアップの3.33ポイントをなんとか上げたいミックはミドルサイズの波をつかむ。すると:
◉1発目の歓声⇒「イェ〜イ!」
◉2発目の歓声⇒「イェ〜〜〜イ!!(+拍手)」
◉3発目のカービング⇒「ウェ〜〜イ!」
◉インサイドへのアップスでの加速⇒「ヒューヒュー(指笛)」
◉フィニッシュでワイプアウト⇒「オォ……(含:解説するポッツの落胆)
といった具合に、ライディングと応援の声がリンクしている。
次にイタロが乗ると:
◉1発目の歓声⇒「・・・」
◉2発目の歓声⇒「うわ〜・・・(+拍手がパラパラ)
◉3発目の歓声⇒「ウォウ!」
◉フィニッシュでワイプアウト⇒「「イェ〜〜〜イ!!」
とアウェイ・サラウンドが響き渡る。これがミック劇場の洗礼と言うわけだ。
ミックのポイントが4.73とコールされ、イタロが逆転するには6.51ポイントにハードルが上がった。と、それもつかの間、ワイプアウトしたイタロのライディングには7.33ポイントが計上。
「・・・」
無反応。全豪が凍り付いた。
が、イタロのライディングがスクリーンに映し出され、ワイプアウトのシーンで「「イェ〜〜〜イ!!」という歓声が響き渡り解凍された。
ミックがひっくり返すには5.56ポイントを叩き出さなければならない。残り5分を切ったところにセットが入るもミックはスルー。それをインサイドでイタロがつかむと、またもや「よっしゃ〜!」とばかりに、もはやアイコニック・マニューバーになったバックサイド・フリーフォールを4発決めて、再びイタロ・ダンス。その闘志に少しずつ歓声が上がるようになった。
8.33ポイントがスコアリングされ、ミックが逆転するには7.57ポイントとさらに差が開いた。残り3分を切り、うねりは入るもののブレイクしない状況が続く。
と、残り1分ちょっと前に沖からラインナップが入ってきた。
「十分なサイズだ」とポッツがコメントして盛り上げ、会場からは割れんばかりの期待の声がこだまする。が、全豪中の念力も届かず波はノンブレイク……。落胆の声が響くとともに、イタロがカウントダウンに備えてインサイドに移動してきた。
20秒前には初めての優勝に涙が溢れ出し、頭を抱えて泣き叫ぶイタロ。それを見て笑顔のミックが近づいていき、10秒を超えるハグをしながら自らの最終章の幕を閉じた。
シナリオとしてはミックが有終の美を飾る物語のほうが良かったのは確か。が、スリリングなサーフィンでワクワクさせてくれたイタロのような、未来を牽引していく後進に時代を引き継ぐ勇退劇も悪くない。ケリーの期待には応えられなかったけれど、〈KS SURF CO〉の創業者をラフススネークに連れて行き、わからせちゃってください。
Cheers Mick! お疲れ様。そして、ありがとう。
記事内のリンクから飛ばなかった方に。ケリーがインスタに書いていたラフススネークの動画です。ひとひねりしている理由をご確認ください。
最終日のハイライト動画も貼っておきます。よろしければどうぞ。