地の果てで遭遇した奇跡の光景〈北極光-後編〉

LIFE WORK 「サーファーの知らない地球を歩く生き方」

THE NORTHERN LIGHTS
北極光-アイスランドへの冒険

オーロラの灯りがスポットライトのようにサーファーを照らす実在のファンタジー。知られざる地球の姿を追求しようとハードルを超えてきたサーファーたちに贈られたギフト。

前編のあらすじ)地球とサーフィンが対峙する瞬間を切り取ることに人生をかける写真家、クリス・バーカード。「凍て付く海でサーフィンする喜び」をテーマにTED Talksカンファレンスに登壇した稀有のサーフィンフォトグラファーの彼が、元CTサーファーのティミー・レイズ、ロングボード・チャンピオンのジャスティン・クィンタルとともに極寒のアイスランドへ渡航。寒冷マゾヒストのローカルたちに誘われるままに、未知の領域へと踏み込んでいく。そこへ、四半世紀ぶりの大嵐が到来。無人のパーフェクトな波の数々に期待がかかる。

Photo: Chris Burkard/Massif Text: Benjamin Weiland

ダクトテープなど競技シーンでも活動するスタイル派ロガー、ジャスティン・クィンタル。冷気極まる暗雲下でも、ノーズライディングしている瞬間だけは寒さを忘れる。

マグナッセンは我々に、嵐からのうねりがライトアップされる海岸線の話をした。ただ、そこへたどり着くには11時間もの道のりを耐えなければならない。山道を抜け、海に面した高所の崖を横断。その道はとても古く、岩だらけだという。急な斜面は雪崩で有名な難所らしく、手に汗握りながら、かたつむりの速度のじわじわ運転を余儀なくされる。

レストランの片隅にあるテレビが、地方地帯の家や船舶への警告を報じている。ニュースキャスターが過去四半世紀で最大規模の嵐であり、雪崩への警戒基準が最高域に達したと声高になっている。

この旅には大きなリスクを伴うが、稀有のうねり機会を見逃したいものなど誰一人いない。我々は1時間ほどの審議の末に、嵐の中へ向かうことを決めた。

地元の人々は、甚大な規模の嵐に備えて統率しながら包囲網を組んでいる。消耗品を備蓄し、窓をシーリングして、ドアのボルトをきつく締め上げる。やがて、生活機能が遮断される。道路は雪で封鎖され、交通手段もなくなり、時折襲う停電の試練を耐えしのぐ。嵐が過ぎ去った後の生活は、除雪車の速度に合わせて回復していく。

我々もクロスカントリーの旅を前にスーパーマーケットに立ち寄ったが、通路は人で溢れており、冷凍食品や缶詰をカートいっぱい買い込んでいた。店の外では、買い物客が暗闇の中を帰宅ラッシュで忙しくしていたが、我々は彼ら彼女らと逆方向にハンドルを切った。狭い道に向かったのは我々だけだった。

サーフィンを終えて帰着したジャスティン。凍った体をすぐにでも溶かしたいところだが、あまりの風の強さに耐えきれず、キャビンの影で一時待機。

黒い淵と氷壁の間を走る曲がりくねった道が、山の高所へと導く。と、突然、厚手の白い毛布のような雪が、我々の道の前に滑雪してきた。嵐の中で島に渡るという決断がナイーブであることが、我々はこのときようやく理解した。

雪の塊を避けながら、積雪の最も低い絶壁側を慎重に運転していく。が! タイヤがグリップを失い空転……救いようがなかった。しばし沈黙。だがその後、車の外で何かが轟音を立てた。

「やるしかない」とバーカードが声を出した。私はドアをこじ開けようとしたが、猛烈な風がそれを阻む。格闘後になんとか開けると、車内が雪片で真っ白になる。その間、わずか0.5秒。車外で動くには、手で顔を覆うしかない。指の間を少しだけ開けて視界を確保する。

クルーたちがタイヤの下の雪を掘り掻き、車を前後に揺さぶるがびくともしない。ロギ・エリアッソンが彼の車に駆け戻り、シャベルを持って戻ってきた。彼は雪を掘っては空中へと投げ捨てる苦行を貫き、車の周囲に広いスペースを作り出した。7人が束になり、後部バンパーまわりに力を集中。3…2…1…とカウントダウンの声が暴風を遮りこだまして、そして歓声が沸いた。4度目の挑戦でようやく開放された。

14時間の陸路を走破し、我々は海小屋に到着した。怒り狂う嵐は、その激しさを増している。家屋の中の中ではきしみ音が鳴り響いていたが、やがて徐々に静かになっていった。

翌朝、嵐は過ぎ去っていて空はクリアだった。風も穏やかになっていて、ゆるやかなオフショアが吹いていた。これがこのクロスカントリーの旅における最初の幸運だった。海岸に続く道を除雪車が忙しく掻き分けてくれ、我々はついに波探しの起点に立つことができた。

うねりのコーデュロイが、この国に備わるリーフやリバーマウス、サンドバーなどあらゆる棚に向かい行進している。我々は貴重な日照時間を費やすにふさわしい、カリフォルニアのロウワーズを思わせる完璧なAフレームでサーフし、その後、凍える滝の下でブレイクするダブルオーバーヘッドの波がひたすら割れ続けるベイへと向かった。

アイスランドは潮の干満差が5〜6mにおよぶ。干潮時にはケルプでいっぱいの海底と、その先のリーフの縁に沿ってブレイクするパーフェクションが露わになる。ティミー・レイズ。

暗闇が再び襲ってきた時、空いっぱいにネオンが広がる北極光が現れた。ポイントチェックを再開すると、オーロラの下でホワイトウォッシュを放つ淡いラインナップを発見。完璧な波であることはブレイクの痕跡から明らかだ。

「アウトに出るのにこれだけのオーロラの光があれば十分だよな!?」と、クィンタルが大声で賛同を求める。

色を変えて伸縮を繰り返す帯が、大空で混沌の舞いを踊っている。気温はとても低く、水面に流れができている。だが、クィンタルはフェイスは十分クリアだと判断していて、パドルアウトに向けて厚いネオプレンゴムに着替え始めていた。

クィンタルが最初のセットを乗ろうとパドルしたのが見えたが、暗闇の中に消えていった。やがて、波を追いかける二度目のストロークが見えた。ついにフェイスを駆け下りグライドすると、長く大きな弧を描きながらカットバックしてみせ、パワーポケットに再びセットアップすると壁波のハイラインに沿って、燦然と輝くグリーンのガラスの海の上をノーズライドしていった。

マグナッセンは波打ち際に立ち、満面の笑みでその様子に見入っていた。北極光の灯りで波に乗る光景を見たのは、彼も初めてだった。アイスランダーたちの波探しの冒険話を聞いていたので、このシーンがどれだけの奇跡なのか想像を絶する。あまりに多くの変数の掛け合わせがすべて揃う必要があり、それらを予測するのは非常に難しいとマグナッセンは説明した。

我々が戻ると、小屋の生活機能は回復していた。ニュースは四半世紀ぶりの嵐がアイスランドにもたらした災害について報道している。いくつかの地域で家屋の屋根が吹っ飛び、桟橋内のボートも被災したようだ。雪の中から車を掘り起こし、停電に対処した我々の不満が小さく思え、突如として冷静な視点に立たされた。

すぐに道路は整備され、我々のグループはレイキャビクに戻り、その後アクセスのカンタンな暖かい気候の下でのサーフィンスタイルに帰っていく。だが、アイスランダーに温暖な故郷はなく、水平線の向こうにいつも嵐が潜んでいる。でも、それも悪くない。なぜなら、嵐にさえ耐えることができれば、我々の故郷よりずっと質の高い波の宝庫だから。

前編はこちら

関連リンク:

http://www.underanarcticsky.com

http://www.chrisburkard.com