モダンサーフィン最古のスタディオン。
Text: Junji Uchida
やはり全快ではないからか、今季がラストシーズンと見込まれるケリー・スレーターが足のケガを理由に不参戦が続いている2018年のCTツアー。開催期間に入っているリップカールプロ・ベルズビーチを最後にコンペティションからの引退を表明しているミック・ファニングも、ラストひと勝負お手合わせ願いたかったはず。まぁ、おそらく〈KS WAVE CO〉にとって大事な興業となるサーフランチ・ファウンダーズ・カップにはケリーは出てくるだろうし、ミックもオージーチームのメンバーなので、それまでお預けといったところ。
さて、ミックがリタイアの花道に選んだのは、19歳のときにワイルドカードで出場し優勝を遂げたベルズ戦。もちろん長きにわたってスポンサーしてきてくれたリップカールへのリスペクトもあるだろう。が、オージーにとってベルズビーチはやはり特別な場所というもの大きな理由だ。
そこで、第1戦のスーパーバンクに続き、ベルズビーチについて紐解いていこう。
優勝者リストに名を連ねたい栄誉のブレイク。
ビクトリア州にある小さな街、トーキーから3マイルほど南西に下ったところに佇むベルズビーチ。半世紀以上ものあいだ、オージーたちの胸に深く刻印されてきた、オーストラリアをもっとも象徴するサーフスポットだ。その長く厚くスピーディな壁波は、サーフィン界を代表するグローバル企業、リップカールとクイックシルバーを成長させただけでなく、世界でもっとも歴史のあるコンテストリップカールプロで:
◉1962年〜1969年:原点となるベルズビーチ・イースター・ラリーには、ショートボード革命を起こしたオージーの寵児たちも参戦。
◉1981年:サイモン・アンダーソンがトライフィンの原型となるスラスターの性能を、15フィートのベルズで証明。
◉1986年:いまなお史上最高の戦いとの呼び声が高いトム・カレンvsオッキーの準決勝対決がUS対AUSのライバル関係を醸成。
◉1999年:優勝したシェイン・ドリアンがトロフィーを掲げたあと、過去の優勝者リストを見て「下手クソがベルズで勝ったことはないね」と発言。
◉2008年:ベルズで3度目の優勝を遂げたケリー・スレーターが「最高のトロフィーの鐘を鳴らすにはベルズを制覇するしかない」と言及。
◉2009年:ブラジリアンで初めて勝利を遂げたシルヴァナ・リマは体にベルズトロフィーのタトゥーを入墨。
等など、無数のストーリーをつくり上げてきた。
Video from Rip Curl:サイモン・アンダーソンが3枚フィンの〈スラスター〉で優勝した81年イベントの裏話。(上の動画と同じものです)
(上)シルヴァナが最近ポストしたインスタ。@SILVANALIMASURF / Insragram
ベルズとウインキー、魅惑のレーストラック。
かつては混み合うポイントではなかったものの、いまやオージーのトップグロムから60代・70代のベテランまでがラインナップ。ハイシーズンはベルズに50人、となりのウインキーポップに50人という日も少なくない。地元のローカルたちは冷水を物ともしないハードコア揃い。ただ、地元だけが分かち合える場所なのだという空気感はさほど重くなく、基本的にはすべてのビジターに対して公平に受け入れるというルールが敷かれている。
世界初のサーフィン・レクリエーション保護区として知られるベルズ/ウインキーポップは6フィート級のときに入ることをおすすめしたい。そのサイズになるとコーデュロイ上のうねりが見えて、駐車場はまだかと心臓がドキドキのはず。
ベルズのひとつトーキー寄りのウインキーも、ワールドクラスの波であることに疑う余地なし。ひとたびスイッチが入れば、平たい岩のボトムの向こう側で250mもの距離が走れる壁波がブレイク。干潮時なら3フィートのうねりでも割れ、5フィートになるとグレート、8フィート以上になれば、どんな潮回りのときでも忘れられない波になる。3〜5フィートのアベレージの日には、アッパーズとロウワーズの2つのセクションに分かれる。アッパーズでウインキー然とした波に乗り、ロウワーズで人生に残る1本を体験したい。ロウワーズ以外がクローズアウトのときに、ロウワーズのラインナップにいくにはいくつか選択肢がある。
パドルアウトする場所は、波の大小により場所が変わる。小さいときはブレイクの正面から出るのが正解。大きいときにはベルズ側から回り込むのがセオリーだ。ウインキーの駐車場にクルマを停めて右奥に向かい、ベルズの砂浜へ下りていく。セットの波をじっくり見ながら、タイミングを図ってジャンプイン。“ザ・ボタン”というニックネームの岩を左手に見ながら10mほど離れたところを通過するイメージ。衝突しないよう注視しながら、高速パドルで駆け抜けるのが鉄則だ。いちど回り込んでしまえば幸せいっぱい。アッパーズの最高のラインナップへ自然と流れが誘ってくれる。
一方、ベルズビーチのメインはリンコンとザ・ボウルの2つのピークに定義付けされる。リンコンは4フィート以下のハイタイドでブレイクする波。独特な岩棚でうねりが盛り上がり、石灰岩の崖を対峙しながらビーチまで美しく捲(めく)れてくる。ただ、やはりザ・ボウルこそがプレミアムの波だ。4フィート以下のときはロータイドのときにしか割れない。が、5フィートを超えるとエネルギーが噴出したかのごとく本領を発揮。10フィート級をメイクできたら、いつ死んでも後悔はないと思えるだろう。ビッグウェイブ時には崖にもっとも近いビーチの角からパドルアウト。タイミングが重要で、誤るとビーチに沿って横へ一気に持っていかれる。アウトに出るまで分厚いショアブレイクとの格闘があるが、リスクテイクしただけの喜びが存分に味わえる。
コンテスト開催前のフリーセッション映像がWSLからドロップされた。グランドスウェルではないので楽しそう。まだご覧になっていない方、よろしければどうぞ。
Video: Bells Beach Super Session
- ベストシーズン:1年中
- レベル適正:中〜上級者
- ボトム:砂+ロック
- ベストサイズ:2〜20フィート
- スウェル:南西うねり
- 風向:北西・北・西
- 潮回り:すべて(波のサイズによる)
【うねり】
南東に開いたベルズは湾の右端の崖に沿ってブレイクするレギュラーのスポット。その隣のウインキーポップも同様だ。というわけで、ベストのうねりの向きは南〜南西。うねりのシードは、ビクトリア州の南西向きの海岸線に届く西〜南の15〜20フィート(オーストラリアサイズ)のグランドスウェル。それがベルズの西にあるオトウェイ岬をから回り込み、サイズを落としながら南東向きのベルズにシフトしてくるという仕組みだ。うねりがある確率は冬の5月〜9月がもっとも高く80%の割合。サイズも他の時期よりビッグで、平均して5〜7フィートはある。ただ、1年を通して平均で4フィートを下ることはなく、夏の12月〜2月でも50%の確率でうねりがある。
【風】
ベルズは通年で西混じりの風が優勢。冬は西〜北、夏は南〜西というのが標準だ。ただ、ベルズは北寄りの風のほうがいいので、うねりとの掛け算では冬のほうがベターという計算になる。ただ、そこに水温までも掛け合わせると、一概に冬がベストとはいい難い。波・風とも一番いい7月〜8月の平均水温は13℃と凍てつく冷たさ。風向きも合うとはいえ、強風になりがちだ。トーキーローカルたちは、夏はオトウェイ岬の先の南西に向いたポイントに行く傾向があるので、アンダーグラウンドのハードコアでなければ、リップカールプロを見がてら夏に行くというのが得策でしょう。
参考:STORMRIDER SURF(英字)
書籍購入:AMAZON(英語版)
オーストラリアの波情報サイト『コースタル・ウォッチ』がサーフジャーナリストの巨匠、ニック・キャロルをコメンテーターにベルズビーチを紹介する映像を制作。オージー訛が強く分かりにくいけど、よくできています。ぜひご覧ください。下のスクリーンショットをクリックすると動画サイトにジャンプします。