激動の2018年、大物見納めのCTがまもなく開幕。
2020年の五輪競技化に、ウェイブプールという仮想の楽園、初のブラジル勢最多CTツアー、カノアの日本国籍による参戦、グローバルブランドのM&A劇……。モダンサーフィンはいろんなファクトで前進する。が、イノベーターが限界を引き上げるのはいつの時代も変わらない。ジョンジョン/ガブリエル・ジェネレーションにバトンをつなぐ、ヒーローたちのドラマがはじまる。
Text: Junji Uchida
「2013年か2014年頃かな。徐々にツアーへの意欲を失い、2015年には糸が途切れた。2017年はパドルアウトしても勝ち負けすら気にならなくなったよ。他の選手のヒートを見ているほうが面白かったくらいさ」
先の引退声明でそう語ったミック・ファニング。
「競技に成功することによって、より高圧下のプレッシャーに対しても心地良い状態でいられるようになるし、なにをすべきかわかるようになる」
「初期の頃はゴールのことだけを考えていた。でもそれが、短距離走ではなくマラソンのゴールであることを学んだ」
2010年・冬のノースショアのリップカール・ハウスで、そう話していたのが懐かしい。
2013年のワールドタイトル獲得で、コンペティター人生に達成感を得たのだろう。36歳になったいま、クラフトビールやソフトトップボードなどのビジネスベンチャー、〈クリエイチャー・オブ・レジャー〉への経営参画などにも積極的で、人生の次のステージへとモチベーションがシフト。引退という流れになっても何ら不思議はない。というより、それが自然だ。
約1名を除いては。
ケリー劇場・最終章、依然黄信号か。
2018年のCT選手の年齢分布(2017年末時点)をご覧いただきたい。
いちばん多いのはジョンジョン・フローレンスやガブリエル・メディナなど、モダンサーフィンを牽引する23〜25歳。その次がジョーディ・スミスやジュリアン・ウィルソンら29〜31歳のツアーベテラン。ちなみに唯一の10代、19歳以下は期待の新人グリフィン・コラピント。ミックはジョエル・パーキンソン、エイドリアン・バッカンとともに35〜37歳のレジェンドゾーンに含まれる。
そして、44〜46歳のレガシー領域にただひとりいるのは、ご推察の通りThe GOAT(Greatest Of All Time=史上最高)、ケリー・スレーター。
自他共にコンペティションジャンキーと認める、11度のワールドタイトルホルダー。
並行して:
◉ウェイブプール・ソリューションの研究開発から〈KS WAVE CO〉の創業、WSLへの売却
◉ラグジュアリーブランド総合企業ケリンググループ傘下でのサステイン・アパレル〈アウターノウン〉の立ち上げ
◉〈ファイアーワイアー〉の買収およびシグネチャーブランド〈スレーターサーフボード〉の新設
◉スーパーフード・ストアチェーン〈The CHIA Co〉の開発援助
など、いくつもの事業ポートフォリオの経営判断を、ビジネスパートナーとともに意思決定し続けるエグゼクティブでもある。
そんな、前例のないスーパースターはジョンジョンが初めてのワールドタイトルを決めた2016年のポルトガル戦の直後、そのパフォーマンスに刺激を受けたとSNSに投稿。さらに、10数年来の問いについても明言。
「もう一度ワールドタイトル獲得に挑む。その実現のため、多くの時間を割くつもりだ。2016年の(納得できない)成績に触発された。これからの4ヶ月、体とモチベーションを鍛え上げる。心身ともに捧げる最後の1年を見ていてくれ」
2013年のパイプマスターズ以降、ずっと優勝できずにいた。が、2016年のチョープー戦でジョンジョンを下して久々に勝利。手応えを得たうえでのラストドリームツアー宣言だったのだろう。
“継続”を意味する『コンティニュアンス』という題名のフィルムまで制作して臨んだ2017年シーズン。
が、第6戦、Jベイ・イベントのフリーサーフィン中に、軸足の右足指を複雑骨折。続く4試合の不参戦は強いられるも、最終戦のパイプマスターズになんとか復帰。しかし、ガブリエルが出口封鎖作戦で品格を問われた(そしてケリーにとってブーメランにもなった)ラウンド5を迎えた朝も、痛みが走っていたという。
カリスマ式モチベーション継続法。
人生の半分以上をCT選手として生きるケリーに、モチベーションについて訊く機会が何度かあった。そのなかから、セミリタイアから復帰した3年後の2005年=第2のツアーライフ初、通算で7度目のタイトル獲得時の話を紹介したい。ちなみにケリーは、このとき33歳。
Q ナンバーワンであり続けることは大変だよね?
心がけひとつだね。能力の問題じゃない。1度勝つことができれば、また勝つことは可能。誰かに勝ちたいのなら、みんなと違う視点を持てばいい。しっかりまわりを見渡せば、誰に運が向いているのかわかる。その、運の向いている人物を注視すると、いかに他者と違うかに気づくことができるんだ。
一般的に勝者はただの幸運のように映るかもしれない。が、実はパターンがあって、ラッキーではない。勝者には、他者と完全に違う世界が見えている。そうなるためにはいつも心を開いて、あらゆる事象を吸収していくことが必要。目の前に広がる今という時間は、絶えず変化していくのだから。
また、感情の起伏にあわせて都度ごとに考慮しながら、よりエモーショナルになると、世界がより鮮明に見えてくる。ぼくは40歳になっても、ワールドタイトルは取れると思っている。身体を鍛え続ければコンディションはキープできる。
ただ、アクティブな心と新鮮でエキサイティングな視点を持ち続けることが必要だ。そういうマインドを持てない人間はドラッグやギャンブルにのめり込んでしまう。人生なんてつまらない、他から刺激を求めよう、と。
繰り返しになるけど、いつでも心をオープンにしていろんな視点を持てば、同じことでもさらにエキサイティングになっていく。
Q モチベーションを高く持ち続けることこそが難しい?
ぼくの場合は、ツアーに出ている自分を、スポンサー、母親、友人、ファンなどのいろんな人の視点からも見るようにしている。みんながみんな異なる理由を持ちながらぼくのことを見てくれているだろうから。
みんなの視座に立って見ることで、自分以外の他者の気持ちまでシェアすることで、モチベーションを高めていくことができるんだ。
史実に残るパイプでのドラマに期待。
2018年のワイルドカード枠を得て、出場権を得ているケリー。1月のバックドアでの貫禄のライドが、『サーフライン』の2017/2018シーズンの“ウェイブ・オブ・ザ・ウインター”にノミネートされ、復調ぶりを伺わせている。ただ、マスターズ敗退時のインタビューでは、参戦への明言を避けている。
「今回の療養期間はいいことだと考える自分もいる。数年前だったらそう思えただろうし、楽しめただろう。でも、いまはわからない。(2018年の初戦まで)数ヶ月考える時間がある。もう45歳だ(2017年12月取材時)。あと3年参戦したら、コンペティター生活が40年になる。もう2度とヒートに出ないという欲求が強まるかもしれない。
すべての同意書に署名できる、信頼のおける医師を得た。12度目のための充電というのもひとつだけど、解き放たれて自由になるという道もある。
あと、最近ぼくは、“自分がしていることにヘドが出そうだ”と、たびたび思う。ものすごい重圧がいつものしかかっているのがその理由。人は自由になりたいし、人生を楽しみたい。
が、その重圧が良い方向に作用することも確か。人生においてわずかばかりの挑戦を創造してくれる。プロのアスリートは競技生活を終えるとき、自らを取り巻く個人的な難問を乗り越えていくことになるのさ」
Jベイで折れたのは、足の指以上にV12へのモチベーションのほうが深刻だったのかもしれない。果たしてケリーは心身とも再構築して今季に臨んでくれるのか。
幸か不幸か、WSLが望んでいたパイプマスターズのシーズン初戦へのスイッチは見送られ、今季の最終戦にとどまった。時代をともに生きてきたファンとしてはKS12を見たいところだが、少なくとも引退の花道にふさわしいザ・コロシアムでのラストステージで感動したい。
第1戦クイックシルバープロ・ゴールドコーストのラウンド1・第12ヒートにケリーの名がクレジットされている。対戦相手は昨年の千葉でのQS6000を制したブラジルのツアールーキー、ジェシー・メンデスと、地元が全力で応援してくるミック・ファニング。
The GOATの動向が気になるCTシーズンがまもなくはじまる。
Go Kelly!