【ビデオ】躁鬱病と薬物依存に戦っていたアンディ・アイアンズを描く大作。

話題作の内容が徐々に明らかに。

『アンディ・アイアンズ:神にキスされた人生』

 

Text: Junji Uchida

 

2010年11月2日。世界中のサーフィン界に衝撃が走った。3度のワールドタイトルを獲得したハワイの英雄、アンディ・アイアンズの遺体が、テキサスのとあるホテルの一室で発見されたというのだ。死因は当初、デング熱による病死と発表されていた。が、のちに弟のブルース・アイアンズが、無呼吸症候群に伴う心臓発作が原因であると明かした。ただ、一部からは違法薬物の多量摂取が死因であるとささやかれ、暗澹たる状況のまま闇に葬られた。

アンディ・アイアンズが無くなった翌日、コンテスト会場では追悼セレモニーが行われた。写真はアンディのことを兄のように慕っていたミック・ファニング。Photo: WSL / Kirstin

 

あれからおよそ8年。アンディ・アイアンズの謎に満ちた死を明かす映画『ANDY IRONS:KISSED BY GOD』が完成し話題に。5月31日から全米で500以上のワンナイト上映が予定されている。

本日アップデートされたプレスリリースでは、死因は心臓発作ではなく、躁鬱障害と陶酔作用のある化合薬物オピオイドの中毒とのこと。新しいティーザー(上記YouTube映像)のなかでブルースは、「コカインでハイになってはコンテストで優勝し、錠剤を飲むことを繰り返していた。まるで、それが大したことではないように」とショッキングな話を手加減なく語っている。

アンディは、世界中で同じような悪夢と日々戦っている何百万人のうちの1人だった。ブルーカラーからサーフィンで名声を得たのち、世界の頂点に立ったハワイの誇りは、ぼくらが知らないところで内なる戦いをし、崩壊に至ったのである。

どんな波であろうが常に全開。猛突進するアプローチは豪快なタヒチ・チョープーでも変わらなかった。Photo: WSL / Tostee

 

昨年アメリカで、非常事態宣言されたほどの化合物質オピオイド。この薬物による中毒死は全体の43%を占めたそうだが、アンディはこれとも戦っていた。躁鬱病と薬物中毒。2つの病がアンディの命を蝕んでいった。

映画では、偏向編集にならないよう多彩なサーファーたちの肉声を挿入。アンディのエネルギーや情熱、挑戦について、多角的視点から明らかにされていく。さまざまな挑戦がアンディを瀬戸際にまで追い込み、それを操ることが彼にとってもっとも難しいことだったという。

インタビューには弟のブルースや妻のリンディ、さらにジョエル・パーキンソンやネーザン・フレッチャー、サニー・ガルシア、ケリー・スレーターも登場する。

最愛の妻であるリンディーとの仲睦まじいツーショット@タバルア・フィジー。Photo: Cortesy of www.tetongravity.com

 

ネーザンとアンディといえば、マット・アーチボルドも一緒だったメチャクチャなインドネシア・トリップを思い出す。アンディが21歳の誕生日のときの旅で、アンディが仮死状態になったことで有名だ。1人でジャックダニエルのボトルをまるごと空けて、そのまま大いびきをかいて眠りに落ちたアンディ。いびきが止まったと思いきや顔面は蒼白で、唇は紫色に変色していたという。ネーザンは思いっきりひっぱたいたり揺らしたりしたがダメで、となりに泊まっていた旅のメンバーで消防士でもあるケーシー・カーティスに助けを求めた。彼はアンディを裸にして、シャワー室に連れて行き、蘇生措置をしながら救急車を待った。救急車のなかで酸素吸入されてはいたが、意識は戻らなかったという。6分後に奇跡的に息を吹き返したが、一時的に死亡していたわけだ。

後日アンディは、ブルースにこう言った。

ブルース、あの世のドアの向こうから白い光が見えるって言うだろ? あれは本当だぞ。オレは死んでいたとき、あの白い光のなかに入っていったんだ。あそこは暖かいんだ。下を見るとチューブにつながれたオレの死体が見えたし、まわりは医者や友だちがいた。オレは向こうの世界に行ってたんだよ。

本音を言うとさ、オレはあっち側に留まっていたかったんだ。自分の遺体を見ながらとなりに座って、オレ、死んだんだな・・・なんて思ったよ。

兄弟揃って表彰台に上った記念すべき2005年のパイプマスターズ。優勝はアンディでブルースは3位。Photo: WSL / Tostee

 

ブルース曰く、アンディはその体験がとても好きそうだったという。

その11年後、32歳というあまりにも早い死に、世界中のサーファーが泣いた。

 

この映画はただのサーフムービーではなく、彼が歩んだ人生を全力で生きたアンディ・アイアンズ物語。制作の意図には、薬物撲滅を真に願うブルースやリンディの想いもあろう。内なる戦いを克服できなかったハワイの英雄の生き様を、ぜひ見たいものだ。

ウェブサイトによると、いまのところはスクリーニング上映されるのはアメリカだけのようだ。が、配給元はテイラー・スティールの2017年の作品『PROXIMITY』と同じ〈Teton Gravity Research〉。『PROXIMITY』も日本でDVDとして発売されたので期待したいところだ。

 

A.I Forever. Photo: Cortesy of www.tetongravity.com

配給:Teton Gravity Research
ウェブサイトはこちら