【映画】インタビュー:ベサニーの新作は若い女性にこそ観て欲しい。

アーロン・リーバー監督が語る『Unstoppable:止めることはできない』の裏側。

産後わずか6ヶ月で挑んだジョーズ。そのサイズは40フィートに及んだ。Photo: Courtesy of Unstoppable
トライベッカ音楽祭のレッドカーペットにて。左から監督のアーロン・リーバー、ベサニー・ハミルトン、ベサニーの夫アダム・ダークス。Photo: Lieber Films Instagram

 

Text: Junji Uchida

 

まずはこちらの懐かしいトレーラーをご覧いただきたい。

 

シャークアタックに遭い左腕を失ったベサニー・ハミルトン。この映像を見返すと、カムバックすることのへの志の強さ、そして、成し遂げてきた偉業の凄さに改めて驚愕してしまう。

ベサニーが被害に遭ったのは2003年10月31日の朝。当時まだ13歳だった。その年の6月に、彼女はカリフォルニア・トレッソルズでのNSSAの女子の部でベテランに混じって準優勝している。ハワイのサーフィンジャーナリスト、バーニー・ベイカーが“この痩せたブロンドの娘は注目しておいたほうがいい”と言っていたほどの神童。未来を嘱望されていたハワイガールだけに、誰もが衝撃を受け、失望した。が、被害に遭ってから1ヶ月も満たない11月26日にサーフィンを再開。翌2004年7月のNSSAで5位入賞を果たしてしまった。ちなみにこのときの優勝はカリッサ・ムーア。6位は先日のWSLビッグウェイブアワードの女子の部で優勝したペイジ・アルムスだ。

 

あれから14年。誰がこのサーフィンを想像できただろうか。

 

 

不屈の努力で乗り越えていくリアルのベサニー。その姿を通じて、世界中の女性をエンパワーしたい。それが原点。

トライベッカ音楽祭でのプレミアでスピーチするアーロン。Photo: Lieber Films Instagram

 

先日ニューヨークで開催されたトライベッカ映画祭でベサニーをクローズアップした『Unstoppable:止めることはできない』がプレミア上映された。監督は『Leave A Message』や『Zero to 100』など、女性サーファーのドキュメンタリーを手がけてきたアーロン・リーバー。筆者は彼との親交が長く、初めての作品『The Persuit』をリリースした頃からの付き合い。正統派の映像を追求するフィルマーで、のちに〈Nike〉や〈JEEP〉、〈SAMSUNG〉などのCMも手がけるようになった。2015年にはオークリーの創業者が設立した高解像度カメラメーカー〈REDデジタルシネマ〉が主催するサーフィン映画コンペティションで、ノア・ベッシェンをフィーチャーした『THE WILD』で最優秀賞も受賞。そんなアーロンに本作品のニューヨークでの手応えや、作品が生まれた背景などを訊いた。

 

とくに若い女性にこそ観て欲しい。いかに逆境を乗り越え、あらゆる困難をパワーに変換しつづけることが、周囲を牽引する本質であることを知ってもらいたいんだ。

–アーロン・リーバー

 
サーフクラブ(以下S):トライベッカでの反響はどうだった?

アーロン・リーバー(以下A):良かったよ、おかげさまでね。ベサニーは『ソウル・サーファー』を通じてシャークサバイバーとして知られているから、サーファーじゃない人も観てくれたし、REDで撮影した高画質の映像も美しかったという声も聞くことができた。

S:なぜこの映画を制作しようと思ったの?

A:ベサニーの生き方すべて、彼女のほんとうの人生を伝えたかったから。シャークアタックで左腕を失った彼女はそれを乗り越え、つねに最高のサーファーであり、母であり妻であることの意味を再定義した。ベサニーは超越しているよ。彼女の物語、そしてメッセージは多くの人に共鳴する。その強固かつ不屈の努力を通じて、世界中の女性をエンパワーしたかった。力をもらえる作品になったと思うよ。
 

ハワイだけでなく、フィジーやメキシコ、モルジブ、コスタリカ、インドネシアタヒチなどで撮影。収録期間に4年かけたという。Photo: lieberfilms.com

S:ベサニーとはどういう流れで知り合いになったの?
A:10年ものあいだ、サーフフィルムをつくってきたのは知ってのとおり。多くの最高のサーファーたちと撮影していくなかで、ベサニーとも知り合いになり、彼女の兄貴のノアも交えて何度か旅に行ったんだ。

彼女の背景も、『ソウル・サーファー』も知っていたよ。でも、腕が無いことにはまったく興味なかった。勇敢であることは確かだけど、それ以上に、彼女のサーフィン技術のほうがぼくをワクワクさせた。3度の世界チャンプのカリッサと旅に行くのと同じ感じさ。

現在世界ランキング1位のレイキー・ピーターソンとの旅とも共通している。「ワォ!最高だ」というモチベーションがすべて。サーフィンの世界では卓越した技術を持つ女性が少ないから、その部分に光を当てたいと思ったんだ。

とはいえ映画では、もちろんシャークアタックについても触れているし、克服していく姿も捉えている。

40フィートのジョーズをキメてスーパーストーク。「またやりたい!明日かな?」と笑った。Photo: lieberfilms.com

S:彼女のサーフィン以外の魅力を教えて。

A:障害がある分、やりづらいことがどうしてもあるんだけど、それを快くやっている姿が素敵だよね。生涯は弱点と捉えられがち。でも、彼女にとっては強みなんだ。人は皆、いつも課題に突き当たるもの。彼女のそういう姿勢は大事なメッセージになると思う。

あとは、つねに自分自身の最高のカタチでありたいという確固たるポリシー。彼女の倫理・道徳観やサーフィンへの情熱も、制作期間中ずっとぼくをインスパイアしてくれた。

S:逆にベサニーの嫌いなところは?

A:ハハハ。そんなのあるわけないよ。彼女は女性であること、母であること、そして妻であることを愛し、大切にしている。
 

 

Bringing new life into this world. ✨❤️🎉 @blendamontorophotography

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S:この映画をつくるにあたって、いちばんの課題は何だった?

A:ドキュメンタリー作品をつくるのにいちばんの壁は制作費。出費は膨大になるけど、予算は少ない。でも、結局のところ、いちばんの課題はぼくに才能があるかないか。才能があれば簡単にできてしまうのだろうけど。ぼく自身は逆境を乗り越えるのは好きなんだけどね。

S:観客の人生に影響を与える作品にするために苦労したことは?

A:この映画に何を入れないか、その決断だね。ベサニーの人生にはあまりにも多くのことが起こりすぎて、1時間半のなかにすべてを詰め込むのは不可能。限られた時間のなかで、この映画が伝えることは何かを、女性のプロデューサーたちと議論しながらチームワークで見出していったんだ。

ドキュメンタリーの編集作業は、脚本やコンテがある作品とはまた違う楽しさがあるという。Photo: Lieber Films Instagram

 
S:映画のなかに出てくる言葉で好きなフレーズは?

A:ベサニーの夫、アダムのくだりだね:「彼女がジョーズにパドルアウトしたいって言うんだ。ぼくは言葉を詰まらせた・・・“わかったよ・・・”」と語る部分。

S
:この映画を観た人が、帰り道で何を考えると思う?

A:彼女のサーファーとしてのプロフェッショナリズムが、すべての人間が根源的に持ちあわせている“Unstoppable”に火を点けていると思うよ。

S:どういう人に観てもらいたい?

A:『Unstoppable』は、何かに心を揺さぶられたい人のための物語。彼女は日々確かな人生を生きていて、自分自身が設定してゴールへの戦いをオープンにシェアしている。ぼくは彼女の生き方が若い娘や大人の女性はもちろん、少年からミドルの男性にも共鳴できると思う。人生の本質を問う映画であり、物語だから、みんなに観てもらいたいのは確か。

でも、とくに若い女性にこそ観て欲しい。いかに逆境を乗り越え、あらゆる困難をパワーに変換しつづけることが、周囲を牽引する本質であることを知ってもらいたいんだ。

 

『Unstoppable』公式ウェブサイト:www.unstoppablethefilm.net
ベサニー・ハミルトン公式ウェブサイト:bethanyhamilton.com
アーロン・リーバー公式ウェブサイト:www.lieberfilms.com

 

【おまけ動画】ベサニー・ハミルトン:彼女はどうサーフィンしているのか?

 

アーロン・リーバーが2014年に公開した、ベサニー自身が自分のサーフィンの裏側を解説する動画を紹介。試行錯誤を繰り返しながら自分流を構築。そのストーリーに障害者サーファーをはじめ、多くのサーファーがインスパイアされた。ざっくり書き起こしたトークとともにご覧ください。

 

Q. パドリングは?

若い頃はパドリングする力が強かったの。当時は力いっぱいパドルしていたから。小さいときに水泳チームで泳いでいたことも関係あるかもしれない。だからいまも、パドリングするのに十分強い腕を持てている。あとは、コーチが水を掻(か)くときにボードの裏側まで腕を回すようにしたほうがいいと指導してくれたこともあるわね。

 
Q. ドルフィンスルーは?

わたしにとってのカギは、潜るときに目をしっかり開けていること。邪魔にならないようにしなければいけないし、避けられる抜け道があるかも知れない。ときには思っている以上に深く沈めるために、一度ボードに立ち上がって一気に潜ることもある。くぐり抜けることもあるし、ただ降りちゃうこともある。

 
Q. 波のつかみ方は?

とくに特徴的なのは、レイトドロップだということ。普通のサーファーと違って、3〜4回以上漕ぐのは好きじゃない。3回バン!バン!バンって漕いで、波に乗っていく。そういうドロップを何度も練習して、まあまあ悪くない程度にできるようになった。波が来たらお尻の位置をテール側にバックさせて、テールを水に入れたらその反動を利用して、パドリングのスピードを殺さないよう“エイっ!”落ちていく感じね。

 
Q. ボードへの立ち方は?

波の勢いを予測して立つだけなんだけど。ゆっくり崩れる小さい波はいちばん起き上がるのが難しい。そして、うねりを捉えたら立ち上がって、波のなかに入っていく。手はボードの中央に置いてプッシュアップする要領。

 
Q. ボードのデッキについているストラップは?

パパが付けてくれたハンドルのことね。シャークアタックに遭ってから初めてサーフィンにトライしたとき、ドルフィンスルーやビーチブレイクのパドルアウトで波と格闘する私を見て、作ってくれたの。ライフガードがボードに同じようなのを付けているのを知って、漁師が使うロープと手術用のチューブ、リーシュのプラグを用意して付けてくれた。簡素なものだから10〜15分でできたのよ。

 
Q. サーフィンをどう学び直したの?

シャークアタックに遭ったのがまだ若かったから、順応しやすかった分、よかった。まずはロングボードからはじめて、だんだんショートボードに変えていった。ゆっくり順応することを貫く・・・毎日が戦いだった。でも、わからない。あきらめないことにストークしていただけ。

 

Q. 次は何をする?

去年はちょっと忙しかった。けれど、その前はいろんなことに打ち込みすぎて、モチベーションを失ってしまっていた。酷い波を追いかけて、世界中まわって・・・。それは自分のすべきことじゃない。アーロン・リーバーと新しいフィルムをプロジェクトが進行していて、エキサイティングしているの。なぜなら、多くの人はわたしが再びサーフィンできるようになったことを知らないから。いい波でサーフィンしているシーンを収録して、わたしのサーフィンを示したいの。

 

ぼくらサーファーはベサニーの偉業をタイムライン上の線で見ている。が、『ソウル・サーファー』でそのブレない強さを知ってファンなった一般人が、吸い込まれるようなハイレゾ映像で表現されるフルローテーション・エアーや、ワイルドカードで出場したフィジー戦でのクオーター進出劇、さらには産後わずか6ヶ月での40フィートのジョーズ・チャージを観たら衝撃だろう。アダプティブ(障害者)サーファーをささえる社会貢献にも尽力し、子育てと良き妻もこなすひとりの女性。もはやリスペクトしかないベサニーの『Unstoppable』、日本展開が待ち遠しい。

が! アーロンに日本でのプレミアについて訊ねると、「もちろん考えているよ。どの映画祭がいいと思う?」という段階の模様(笑)。分かり次第にお知らせします。