東京オリンピックを見据えて国籍を変更。
Text: Junji Uchida
かねてから国籍を転じる可能性が囁かれていたブラジルとアメリカの二重国籍を保持するCTサーファー、タティアナ・ワトソン・ウェブ。彼女はブラジル代表として活動していくことを正式に表明した。
タティアナは1995年、1996年のパイプラインでのコンテストに優勝したボディボーダーの母親と、ハワイ・カウアイのハードコアサーファーの父親のあいだに生まれた生粋のサーフィン一家育ち。母親はブラジル人で、父親はカウアイで暮らすも血筋はイギリス人だという。
写真撮影で母がカウアイを訪れた際に2人は恋に落ち、やがて結婚。が、恐れ知らずでやんちゃな母親は、タティアナを身ごもったまま二重国籍を得るため、飛行機で強引にブラジルに帰国し出産したそう。ちなみに、タティアナがお腹にいた妊娠6ヶ月のときにもパイプラインをチャージしていたという逸話の持ち主。
かくして夫婦の望み通り、タティアナは二重国籍を取得。これまではアメリカ(ハワイ)代表として活動してきたが、2020年の東京オリンピックを転機と決心し、ブラジル代表の道を選んだ。
わたしにとってブラジルは生まれた場所。そして、美しいカウアイで育ってきて、とても幸せだと感じています。いずれのコミュニティ、そして波も、わたしをサーファーとしてだけではなく、人間形成してくれた大切なもの。それについて、とてもありがたく思っています。
けれど、ブラジルはいつもわたしにとって重要でした。最近、ブラジルのオリンピック委員会から正式に代表になる機会についてのアプローチがありました。オリンピックに出ることはいつも夢見ていたし、サーフィンが正式に五輪競技になったときに、夢が実現するかもしれないと思いました。
–タティアナ・ワトソン・ウェブ
2020年の東京オリンピックでは、WSL枠として男子10名、女子8名のCTツアーからの出場が予定されている。いまのところ1国あたりの同枠最大出場者数は男子2名、女子2名の計4人。ハワイもアメリカとしてみなされる。
下記の表をご覧いただきたい。
2018年5月1日現在のCTランキングをもとに、選出者を割り当ててみた。☆マークが当確者だ。
ご覧のように、2人までのWSL – CT枠において、アメリカとオーストラリアは真っ赤っ赤なレッドオーシャンというわけだ。
アメリカは2位にレイキー・ピーターソン、3位にカリッサ・ムーアがランクインしており、この時点で4位以下のアメリカ代表選手は資格なし。つまり、タティアナはアメリカ籍のままでは選ばれない。アメリカの強者コートニー・コンローグは今季ケガで不参戦を続けているが、復帰後は上位争いに絡んでくる可能性大。さらに一説によると、アメリカはメインランドから1名、ハワイから1名という条件で選出するという話もあり、カリッサも交じるなかでハワイ枠1つを争うのは厳しいのは確かだ。
ちなみにオーストラリアも真っ赤っ赤さで負けていない。1位のステファニー・ギルモアに続く次点は6位のタイラーライト。6度のチャンプのステフと、ここ2年連続で女王に就いているタイラーのコンボとは超絶手強い。
一方、ブラジルはどこまでも青いブルーオーシャン。タティアナ以外にはシルバナ・リマしかおらず、QSランキングにおいてもTOP100内にランクするブラジリアンは、タティアナとシルバナを除くと59位のティアナ・ヒンケルだけ。CTを保持さえすればオリンピック出場の夢が叶う確率は結構高い。
ちなみに、上記表組みによる仮定の出場者をまとめるとこうなる。
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オーストラリア(2名):ステファニー・ギルモア / タイラー・ライト
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アメリカ(2名):レイキー・ピーターソン / カリッサ・ムーア
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ブラジル(2名):タティアナ・ワトソン・ウェブ / シルバナ・リマ
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フランス(1名):ヨハナ・デファイ
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ニュージーランド(1名):ペイジ・ハーブ
5月5日〜6日の2日間、ケリー・スレーターのウェイブプール〈サーフランチ〉で国別対抗戦のファウンダーズカップが開催される。ブラジルチームのメンバーは以下の通りだ。
◉MEN1.ガブリエル・メディナ(キャプテン)
◉MEN2.アドリアーノ・デ・スーザ
◉MEN3.フィリッペ・トレド
◉WOMEN1.シルバナ・リマ
◉WOMEN2.ティアナ・ヒンケル
強豪国に比べて男子は引けを取らないものの、女子については実績ベースでは優位とは言い難い。ブラジルのオリンピック委員会が是が非でも勝ちたいのであれば、タティアナに打診した背景も理解できる。ブラジルがタティアナを快く受け入れ、また、タティアナ自身も夢のオリンピック出場が叶うWIN-WINの関係にあるなら理想のシナリオと言えるだろう。
フィジーの10ftもハンティントンの3ftも危険度的には変わらない!?
最後に、WSLのウェブサイトに記載されているタティアナのプロフィールを記しておこう。また、少々古いが『SURFER』のHOT100の動画がなかなかなの出来栄えなので貼っておきたい。
彼女は2015年、CTツアーにフル参戦して以来、まわりを威嚇し得る力を示してきた。開幕戦のスナッパーロックスで3位になり、フランス戦ではファイナルに進出。最終ランキング7位をマークし、QSシリーズでも首位でその年を終えた。結果、ルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた。
彼女の闘争心の源泉は、90年代にパイプラインで優勝したブラジリアン・ボディボーダーの母から受け継いだもの。一方、情熱はカウアイのハードコアサーファーである父からのものだ。ブラジルで生まれてまもなく、ガーデン・アイランド=カウアイ島に移住して二重国籍を取得。が、タイミングとしてはベストではなかった。
カウアイにはアンディとブルースのアイアンズ兄弟が牽引し、世界の舞台で活躍するよう後押しされる才覚に溢れていて、タティアナも躍進するグロムたちの1人に過ぎなかったためである。
彼女の父は、彼女が若い頃からハナレイ・ベイにともにパドルアウトすることを日課にしていた。それにより、タティアナはCT選手のなかでも波に対して自信がある1人で、ハリウッドの映画会社が『ソウル・サーファー』で若き日のベサニー・ハミルトンのスタント役を探していたとき、11歳の彼女が最適であると抜擢された。彼女はオアフ島での撮影に3週間を費やし、友だちや彼女のヒーローと時を過ごした。
CTツアーへの道程で、ISA世界選手権において2013年、2014年を制しているが、2014年は危うく逃すところだった。その年にCT生活を経験したことがその理由。しかし、CTではケガによる不参戦者が出た場合に得られるインジュリー・リプレイスメントによる大会が3戦あった。
彼女の精力的なアプローチは自らの個性に直接的に表れている。つまり臆病さに欠けているのだ。10フィートのフィジー・クラウドブレイクのグランドスウェルと、3フィートのハンティントン・ビーチの波が同じ程度の危険性しかないような扱いをしてしまう。
2016年のUSオープンで優勝し、自身初となるCTイベントでの優勝を手にした。そして2017年にはフィジーとハンティントンビーチで決勝に進出。2018年は、長く付き合うボーイフレンドのツアールーキー、ジェシー・メンデスと転戦している。この新しいパワフルなCTツアーカップルが王位を獲るか賭けるのも一考だ。