THE FILIPE SHOW
フィリッペ・トレドに歓喜、オイ・リオ・プロ。
サーフランチでのファウンダーズカップが成功を収め、海に戻ってきたトップスターたち。CTツアー第4戦のステージは、昨年からブラジルサーフィンの首都:サクアレマに移動・開催されているリオ・デ・ジャネイロ。全11戦のうち、もっとも観衆が湧き上がる情熱的イベントを制したのはエアリアルの奇才、フィリッペ・トレド。が、今回はエアーだけでなく、バレルライドも圧倒的な“ザ・フィリッペ・ショー”を演じた。
Text: Junji Uchida
「ファイナルは優勝か、準優勝になるのかを決める舞台。それを自分の心に刻み込むのさ。“さあ、ついに時が来た。ビッグショーのはじまりだ。オレのステージだ。オレの情熱を見せつけてやるんだ!”と」
ファイナル進出歴はこれで6回。そのすべてで勝利し優勝を手にしてきたフィリッペ・トレド。勝利者インタビューで負けない理由を問われると、彼はそう答えた。
今季第4戦目のCTイベント、オイ・リオ・プロ。テイクオフゾーンでブレイクした波はやがて巻き上げチューブを形成。その後、エンドセクションに向けての滑走路ができ、バックウォッシュをともないながらウェッジーかつパンチの効いたショアブレイクが炸裂する。
かつて『トランス・ワールド・サーフ』誌で編集長を務め、人気ウェブ番組『Cote’s Cube』を主宰していたWSLコメンテーターのクリス・コーテも、「これまでリオで、こんなにいい舞台を見たことがない」と絶賛するほど、CTサーファーたちの真の力を引き出す素晴らしい波に恵まれた。
インターフェアで痛い目に遭った苦いイベント。
闘争心むき出しのファイティング・アニマル。そんな印象を強く受けた優勝者のフィリッペ。今年のリオ・プロは彼にとって特別だった。ひとつは大会が始まる2日前に、2人目の子供コアが誕生したこと。もうひとつは言うまでもなく、生まれ故郷のブラジルだからだ。
フィリッペは2014年、より良い生活環境を求めて家族とともにカリフォルニア・サンクレメンテに移住。コンペティションへのモチベーションは子供や家族、そして熱狂的サポートをしてくれる地元ブラジルのファンだという。
昨年のリオ・プロも、もちろん勝ち気満々だった。しかし、それが裏目に。第3ラウンドの対カノア五十嵐とのヒートで開始早々にインターフェア。が、その後さらにやってしまうことに。ヒート終了後、ヘッドクオーターでNGなふるまいをしたおかげで罰則が与えられ、次のフィジー戦への参加資格を失してしまったのだ。うっぷんがたまりにたまっていたのだろう、休戦を強いられたフィジーに続くJベイ・イベントで、1本の波でアリーウープを2回成功させる、記録的なパーフェクト10をスコア。優勝をも手にしてしまった。下の動画は昨年のリオ・プロでのインターフェア、その下は昨年の動画でJベイでのダブル・アリーウープだ。
若気の至りによる素行の悪さから、地元ブラジルのファンの期待に応えられなかった昨年。その反省を噛み締めながら臨んだ今試合最初のヒートは初っ端の朝イチ。第1ラウンド・第1ヒートの対戦相手には、くしくも昨年反則をしたカノアもいた(3人ヒート。もうひとりはイアン・ゴーベイア)。終了3分前までカノアがヒートをリードし、フィリッペは3位。が、その後につかんだ波で特大のレール・カービングを2つ重ねて、クリティカルセクションでテールアウト気味に当て込みフィニッシュ。それが8.60のエクセレントとなり1位でラウンドアップ。「エキサイトしないで、リラックスするよう自分に言い聞かせた」と答えたビーチインタビューが印象的だった。
第3ラウンドは身長163cm x 体重63kgの最小CT選手、キアヌ・エイシンとの対戦。このヒートが今大会のフィリッペの戦いで、いちばん冴えなかった。残り時間6分を切った終盤、フィリッペはバレルライドからフロントサイド・ノーグラブ・フルローテーションを決めた。4.83が付いたが、キレッキレのフィリッペに比べたら極めてフツー。もう1本も2.07のロースコアで、2本合わせても6.90。が、幸運にもキアヌがさらに不調で、残り3分時の持ち点の合計は6.37。2.91以上でひっくり返る状況だったものの優先権はフィリッペにあったために、ヒヤヒヤながらヒートを制する格好となった。
ジョンジョンのスランプ説をコーチのロス・ウィリアムスが火消し。
さて、ここでフィリッペ以外の景色も見ておこう。
ファウンダーズカップでは素晴らしいサーフィンをしていたケリー・スレーターは、オーストラリアレッグ同様、ケガを理由に(?)欠場。ジョエル・パーキンソンも個人的な理由で(?)スキップした。ミック・ファニングも引退しているので、この大会にレジェンドは不在。これが今後のCTツアー像というわけだ。
そうしたなか、時代を象徴するブラジリアンストームはこの試合でも全開。ベルズ戦でのイタロ・フェレイラに続けとばかりに、イアン・ゴーベイアがオンファイア。第2ラウンドで昨年のリオ戦の覇者、アドリアーノ・デ・スーザを撃破し、第3ラウンドではジョーディ・スミスも粉砕。第4ラウンドはフィリッペ+マイケル・ロドリゲスとのブラジリアン三つ巴対決になり、精彩を欠いたゴーベイアが苦汁をなめた。とはいえツアールーキーのロドリゲスに加え、やはり今季新顔のヤゴ・ドラもクオーターファイナル進出。層の厚さを印象づけた。
我らが日本代表のカノアは、第2ラウンドで元JPSAチャンプ、柄沢明美の愛息コナー・コフィンを破り、続く第3ラウンドではサンクレメンテ・ローカルズのツアールーキー、グリフィン・コラピントを一蹴。しかし、第4ラウンドでコラピントの先輩:サンクレメンテ・ローカルズのコロへ・アンディーノ&カレントリーダーのジュリアン・ウィルソンにわからされてしまった。
また、2年連続のワールドチャンプ、ジョンジョン・フローレンスも第4ラウンドで、ウェイド・カーマイケル&ヤゴ・ドラのツアールーキー・コンビに土をつけられた。それが引き金になり、ここ数戦の成績から戦意を喪失しているとのスランプ説がネットに浮上。が、コーチのロス・ウィリアムスが火消しするべくインスタに投稿。根拠のない作りばなしの拡散を自粛するよう協力を求めた。
誰にも止められない、ラウンド4からのフィリッペ。
そして『ザ・フィリッペ・ショー』の幕が開けた。
〈CHAPTER 1〉
第1章は第4ラウンド、先述のゴーベイア&ロドリゲスとのブラジリアン三つ巴対決ではじまった。会場はバヒーニャから、クリーンなグーフィーの波が炸裂しているイタウナに移動。ヒートの中盤でセットをつかんだフィリッペはカービング・ハック✕2発+クリティカルセクションにぶち当ててからのフリーフォール✕2発=8.33をマーク。
そして残り3分のときに、ザ・フィリッペ・ショー最初の見せ場が到来。バックウォッシュがつくるバンプを利用してはるか前方めがけて勢いよく飛び出すと、完璧にコントロールしながらノーグラブでフルローテート。滞空時間の長い放物線を鮮やかに描きながらスムースに着地してみせると、ビーチを埋め尽くしているカリオカたちは情熱的な喝采を浴びせた。
解説のマーティン・ポッターは大笑いしながら、「前方への距離がとにかくワイド。15フィートは飛んでいる!」と大興奮。選手エリアから見ているセバスチャン・ズィーツも“オーマイガーッ!”と驚く表情を見せた。今大会唯一の10ポイントとなったこのライドは、早くも今年のエアー・オブ・ザ・イヤーではないかと言われている。
〈CHAPTER 2〉
第2章:クオーターファイナルは会場を再びバヒーニャに戻し、レギュラーのチューブ+ウェッジーなエンドセクションをどう演じるかの勝負になった。優先権のないコロへ・アンディーノはインサイドゾーンからテイクオフすると、シャープかつクリーンにバレルを抜けた。5.50をスコアし会場にビーチに向かってサムズアップ。しかし、完全アウェイの洗礼からか、歓声はまばら・・・。
対してフィリッペには、一挙手一投足ごとにビーチが揺れた。レイトドロップからのバレルIN&OUTで大歓声。その後、カービング・ハックをしてからインサイドで2発クイックなターン✕2発を決めると、再び指笛+大歓声。7.67とエクセレントには届かなかったものの、歓声の音量はエクセレントスコアに捧げるレンジだった。さらに中盤でゲットした6.17にも、エクセレントレンジの大歓声。コロへのやる気スイッチもかき消されてしまった。
〈CHAPTER 3〉
第3章:セミファイナルは、現在ランキングトップのジュリアンとの決戦。ジュリアンが0点台を3発重ねてモタついているところへ、フィリッペは2本目でバレルライドからのフロントサイド・フルローテーション(6.67)。さらに3本目では、1本で2度チューブに入るダブルバレル⇒特大のフロントサイド・フルローテーション(8.67)を完璧過ぎる流れで決めると天を仰ぎ、手をクロスさせてから下に開く得意のウイニングポーズを決めた。
興奮のるつぼと化した会場では、ハーレーのロゴを配した無数のブラジル国旗が揺れている。早々にコンボ状態に陥ったジュリアンはビッグスコア狙いが思うように行かず、2本で5.63と停滞状態。
やがて潮が引いてバレルがつながり気味になるや、フィリッペはチューブ戦略にシフト。テイクオフからバレルにすっぽり包まれると、高速シリンダーのなかで両手をダランとさせてスタンディングポーズ。余裕しゃくしゃくのまま身体が完全に見えなくなると、クローズ直前に見事に出てきて、今度は敬礼のポーズ。7.70と評価されたこのライディング構成が、フィリッペ・ショー最終幕の勝ちパターンになっていく。
〈FINAL CHAPTER〉
最終章:ファイナルはオージーのツアールーキー、ウェイド・カーマイケルとの対決。25歳とはにわかに信じがたい、貫禄いっぱいの熊のようなウェイド。対する23歳のフィリッペを、コメンテーターのクリス・コーテはコブラに例える。ちなみにクリスがフィリッペのライドをトークする際、エアーに向けて加速しているときに“COIL”というワードをよく交える。調べたところ、COILとは“とぐろを巻く”という意味で、要は「さぁ、とぐろを巻いた、巻いたぞ〜・・・やった! 最高の飛びつきだ!」とエキサイトしているというわけだ。やっぱクリスは最高だ。
ところで、カーマイケルとフィリッペがファイナルで戦うのは初めてではない。といってもそれはCTイベントではなく、2015年のQSイベント:ハワイアンプロでのこと。イズキール・ラウ、ダスティ・ペインを含む4人ヒートでの決勝で、このときはカーマイケルが優勝。フィリッペは2位だった。
が、今回ばかりはスイッチの入ったフィリッペを止められなかった。
クライマックスは35分ヒートの比較的早い段階に訪れた。開始早々、ディープポジションからテイクオフし、思いっきりパーリングしたフィリッペはサーフボードをべっこり折ってしまう。が、なかなかいい波が入らず、2人ともベストスコアにつながるライドができずにいた。
開始から8分。優先権がウェイドにありながらも、フィリッペはややインサイド寄りでセットの波をキャッチ。これがザ・フィリッペ・ショーのハイライトになっていく。
通常より3倍の距離はあろう長いボトムターン&レールアウトでタイミングをはかりながらプルイン。巻き上げるバレルのなかをフルスロットルで駆け抜けながら完全に消えていった。依然潮は引いていて、ブレイクはつながり気味。前方もふさがりつつあり潰されたと思いきや、わずかな隙間からスピッツとともにシュッと出てきてみせた。隙間の形に身体を折りたたみ、フル加速から急激にターンして姿を表わしたフィリッペの演技にビーチが爆発。ほぼ満点の9.93のライディングとなり、まるでネイマールが決勝ゴールを決めたかのようなスタンディングオベーションになった。
ウェイドもなんとか応戦しようと必死だが、まったくいい波がつかめない。そこにフィリッペが、さらに追い打ちをかけるべく5.33を叩き出すと、再び地鳴りのようなどよめきが起きた。
が、フィリッペのショーは止まらない。再びプライオリティがウェイドにあるところでフィリッペがテイクオフすると、最初の9.93のコンパクト版的パフォーマンスを披露。クローズ寸前にまたもやギリギリでシュッと出てくると、ビーチのブラジリアンたちは祝歌であろう曲を全員で大合唱しフィリッペを称えた。
「これがブラジルなんだ。このエネルギー、この感覚・・・」
冒頭に記した勝利者インタビューで、フィリッペはこうもコメントして感極まり涙を見せた。
ウェイブプールに海が勝ったと報じる海外メディア。
波情報サイト『サーフライン』や『コースタル・ウォッチ』などに寄稿するレジェンド・ジャーナリストのニック・キャロルは、自身のフェイスブックに「バニーヒャは今日、ウェイブプールを打ち負かした。そう思わないか?」と投稿。『サーフライン』のリオ・プロの報道記事を担当したマット・プルエットも、「オレは$100のサーフランチ1日券を、サクアレマの1日鑑賞券(もちろん無料)と交換するよ」と執筆し、チャス・スミスは『サーフ・グリット』で「プロサーフィンが救われた」と書いた。
こちらをご覧いただきたい。ファウンダーズカップでフィリッペがスコアしたパーフェクト10だ。
確かに素晴らしいライディングだし、人工の波という背景もある分、未来的だ。ただ、今回のリオ・プロのパーフェクト10に比べると物足りなさを感じてしまう。
予測できない波で生まれたリアルドラマを報じてきた百戦錬磨のジャーナリストたちには、サーフランチの台頭に批判的な声も少なくなかった。それを諌める目的からか、WSLは彼らを招待し、体験させた。実際にサーフランチでライドすると、そのあまりに面白く完璧なブレイクにニック・キャロルは「CTイベントに適している」と評価。ただ、「乗る」のと「観る」のとでは別物であることを実感するインパクトが、今回のリオ・プロにはあった。
『ビーチグリット』の主要メンバーのチャス・スミスも、上記メディア向け体験会でサーフランチの波をライド。「12本で1200ドルなら払う。波1本につき100ドル。価値のない波だと思っていたけど、その考えがアホらしくなるほどいい波だった」と話していた。が、ファウンダーズカップについては、「みんな歴史的って言うけど、正直オレは虚飾が過ぎると思うし、一本調子で退屈。そう感じてしまうオレが間違ってるのかな?」と書いている。
ファウンダーズカップに加えて、テキサスに新設された〈American Wave Machines〉のショートクリップが拡散されまくる最中での開催だったため、ウェイブプールに食傷気味だったことも確か。それも今回のリオ・プロがスリリングでアドレナリン出まくりだったと声高に記させた理由だろう。
そして今日、ISA会長のフェルナンド・アギーレ氏が東京オリンピックの会場はウェイブプールではなく海=千葉・釣ヶ崎海岸でやることが正式に決まったとの報道があった。
ISAのアゲーレ会長はこの日、AFPに対して「ISA、国際オリンピック委員会(IOC)、そして2020年東京五輪の主催者の支持の下、サーフィン競技は千葉の釣ケ崎海岸で行われることに決まった」と語った。
引用:AFP BB NEWS
波不足、あるいは台風直撃など、コンディションへのリスクはある。が、これまで志田下では多数のプロコンテストが開催されてきているし、同じ数だけリアルドラマが生まれてきた。アドレナリン出まくりの大会になるよう、いい波を願うばかりだ。
PS:ニック・キャロルとチャス・スミスの、サーフランチ体験会のときのライディング動画を貼っておきます(クリス・コーテもあり)。
優勝:フィリッペ・トレド(BRA)
2位: ウェイド・カーマイケル(AUS)
3位:ジュリアン・ウィルソン(AUS)
イズキール・ラウ(HAW)
5位:コロへ・アンディーノ(USA)
マイケル・ロドリゲス(BRA)
ガブリエル・メディナ(BRA)
ヤゴ・ドラ(BRA)
【ランキング】オイ・リオ・プロ終了時
1位:ジュリアン・ウィルソン(AUS)19,415 pts
2位:フィリッペ・トレド(BRA)18,075 pts
3位:イタロ・フェレイラ(BRA)14,995 pts
4位:ガブリエル・メディナ(BRA)14,160 pts
5位: ウェイド・カーマイケル(AUS) 13,585 pts