【WSL】8.0以上のエクセレントが激減。

キモはファーストターン? コラピントが指摘する新ジャッジ基準。

ミック・ファニングが動けば群衆が動く。演出効果も手伝い、ベルズビーチは大変なことに。Photo: WSL / Sloane

Text: Junji Uchida

 

ミック・ファニングにとって最後の試合になるリップカールプロ・ベルズビーチ。ミックのラウンド1のヒート前に、完全にゾーンに入った状態で激しくワークアウトするおなじみの映像が流れた。開始直前のギリギリまで自らを作り込む姿が見納めなのかと思うと、やはり悲しい……。

ワイルドカードで出場した当時19歳だったミックは、由緒正しきベルズ・コロシアムで先輩たちを矢継ぎ早になぎ倒して優勝。神童と評されてきた前評判にふさわしい、華麗なデビューを飾った。

ケリー・スレーターや、いまは亡きアンディ・アイアンズがつねに頂上に鎮座するタイトル獲得が難しい時代に3度の世界王座を奪取、ストロング・オージーの名誉を奪還した。そうして英雄となり、ミックはエンディングの舞台にオージーにとって誇り高きベルズボウルを選んだ。その理由には、全豪が期待する“優勝して引退”という最高のシナリオに応えたいという思いもあろう。威信をかけて臨むオーストラリア王者の決意が、トレー二ング時の表情にも表れていた。

ミックのラウンド1の対戦相手は、セバスチャン・ジーツとジェシー・メンディス。ソリッドなベルズボウルの際どい場所目がけて閃光とともに轟音を放ち、6.60ポイントと6.43ポイントを叩き出し1位通過。とくに6.60の最初のマニューバーでは、あの超高速ねじり込みカービングターンを披露。回しきったあとから分厚いスプレーが舞い散るホワイト・ライトニングも、これで見納めなのかと思うとやはり悲しい……。

世界最速の異名を取ったオーストラリアの英雄。眩しいスパークは衰えるどころか、さらに進化している。Photo: WSL / Cestari

 

ラウンド2終了時で8.0ポイント以上は、2017年41本に対して2018年は2本のみ。

ん? ちょっと待って。6.60と6.43? ミックの前のヒートで相変わらず均整が取れていたジョエル・パーキンソンのライドも6.33と6.00……それでいいんだっけ?

今年のリップカールプロを見ていてスコアが低いと感じたのは、自分だけではないはず。2日目までにラウンド1(12ヒート)+ラウンド2(12ヒート)=計24ヒートを消化。そのうちエクセレントはイタロ・フェレイラの8.33ポイントとセバスチャン・ジーツの8.17ポイントの2本だけだ。

そこで昨年のリップカールプロを見てみたい。ラウンド1(12ヒート)14本、ラウンド2は実に27本のエクセレントが出ている。

昨年のベルズ戦はエクセレント出し放題。ここまで多いとありがたみが薄れ、パーフェクト10の威厳も下がってしまう。

 

グリフィン・コラピントが指摘:「ファーストターンに高得点」

今年からヘッドジャッジが、8年間務め上げたリッチ・ポルタ氏から、ジャッジ歴19年のキャリアを持つプリタモ・アーレント氏に代わった。アーレント氏は3月31日のWSLニュースのなかで、ベルズでのクライテリアに触れている。

「ジャッジ委員会は、もっとも急な角度の際どいセクションを追求したアプローチを評価するという、昨日のウインキーポップでのクライテリアを継続。また、インサイドのクローズアウトセクションでの際どい、あるいはダイナミックなターンについても考慮する。ベルズボウルでは、しっかりとレールが入ったスピーディでパワフルなターンを、いかにポケット際でできるか、その能力を求めていく」

放送席にゲスト出演していたグリフィン・コラピントは、アーレント氏の率いる新しいジャッジ・クライテリアについてコメント。

「ジャッジに関して、ぼくは新しいクライテリアは好きだな。素晴らしいと思うよ。ファーストターンで攻めないといけないから、ぼくらはより一層エキサイトすることになる。ラウンド2のパット・ガダスカスとカノア五十嵐のヒートを見ていたんだけど、パットはいい波のファーストセクションで、巨大なレイバック・ハックをかけてから、最後まで乗り継いで7.73ポイントがスコアリングされた。カノアのハイスコアは、フローターを入れてから2発目で大きいターンをし、3発目でいちばんでかいターンを描く構成を敷いた。が、スコアはカノアのほうが7.40ポイントとほんの少しだけど下回った。つまり、ファーストターンでのマニューバーに加点されるということだと思うよ」

パット・ガダスカスが対カノア五十嵐のヒートで見せたファーストマニューバー。Photo: WSL / Sloane
ゲストとして登場したグリフィン。新しいジャッジ・クライテリアについて自ら率先して言及した。

◉下記動画のパットは0:45、カノアは5:00あたりからのライディング

たしかにグリフィンのいうとおりだ。さらに、イタロとシーバスのライドをプレビューしてみると、双方ともファーストアプローチが極めてソリッドだった。イタロの1発目の当てている場所、そして、その後のフリーフォールからの、どこまでも自然なボトムターンへのフロウ。まるでワンターンのような一連の動きは、激しくも超スムーズだ。続く2発目、3発目のバックサイド・ハックも引っかかることなくお手本通り。これで8点台が出なかったらエクセレントはどれだけ求められるんだというほど、強さと美しさを兼ね備えた1本だった。

◉イタロの8.33ライド(下記動画4:00あたりから)

また、シーバスのエクセレントもショアブレイクまでの広大なキャンバスを、レールを切り返しながらクリーンにサーフィン。が、やはり1発目の、フェイスの下の方までドラッグするカービングターンが大きな見せ場になっていた

◉ジーツの8.17ライド(下記動画2:15あたりから)

今年からラウンド5のルーザーズ・ラウンドが撤廃され、勝ち抜いた選手が一呼吸できるバッファがなくなった。また、クライテリアが刷新されたことで、選手たちに初っ端からリスキーなマニューバーが強いられるのであれば熱戦になるのは必至。ファンとしては歓迎だし、いままでポンポン出ていたことで軽んじられていたエクセレントが、基準が変わったことで重みが増すし、パーフェクト10のライディングに対して一層称えたくなる。

そうした視点を押さえつつ、ラウンド3からの熱戦を楽しむのも一考だ。

 

【参考】回想:前ヘッドジャッジ、リッチ・ポルト氏。

リッチ・ポルト氏について、記憶があるサーファーも多いだろう。2015年のハーレープロで、ケリー・スレーターがバックサイド・リバースにトライ。どう見ても失敗する次元のアプローチにもかかわらず、いつもの器用さでボードを掴みヒザから着地。解説していたマーティン・ポッターは「奇抜な才能だ」と評価した。

が、スコアは4.17ポイント。その後、やはり解説していたピーター・メルが、「あれが4.17は信じられない」と発言したり、『サーファーマガジン』や『ABCニュース』、『ハフィンポスト』など、いろんな角度のメディアが一斉に報じたことで炎上。のちに騒動に対してWSLが、ケリー・スレーターとリッチ・ポルタ氏の見解を映像でまとめてリリースした。そのなかでポルタ氏は、「胸から落ちたエアーに価値はない」と一蹴。

◉ケリーおよびポルト氏の見解動画(下記リンクをクリック)

Video: Kelly Slater, Head Judge Break Down Attempt Air at 2015 Hurley Pro

ポルタ氏の発言は正論だ。しかし、サーファーたちはスコアや勝敗もそうだが、マニューバーそれ自体に心を揺さぶる。リップカールプロ・ベルズビーチでも、感動的なサーフィンに期待したい。