Text: Junji Uchida / Reference: The World Stormriders Guide
第1戦のクイックシルバープロ・ゴールドコースト、第2戦のリップカールプロ・ベルズビーチに続き、オーストラリアレッグ最後の大会となるCTイベント、マーガレットリバープロ。マーガレットリバーの波を端的に表すなら、獰猛なヘビーウォーター。“吼える40度線(Roaring 40s)”として知られるグランドスウェルが西オーストラリアの南西海岸沿いに押し寄せ、ハワイスケールのうねりが岩棚にヒットしブレイクする豪快な波だ。
オーストラリアレッグの波を整理すると:
#1. スナッパーロックス(スーパーバンク)⇒人工的に作られたスーパーロング・ライト。
#2. ベルズビーチ⇒サーフィン史において、もっとも歴史ある伝統のコロシアム。
#3. マーガレットリバー⇒グランドスウェルが生み出すハードコア・クラシック。
の3本立て。すべてが特徴的だし、棲み分けもされている。
というわけで、前回のベルズビーチ編につづき、マーガレットリバーをスポットチェックしていこう。
パースの冒険家が発見したヘビーウォーターの楽園。
Photo: WSL / Cestari
西オーストラリアの州都パースからクルマで3時間半ほど南下したところに位置するマーガレットリバー。このエリアでサーフィンを始めたのは、やわらかなビーチブレイクをホームとしていたパースのローカルたちだ。50年代後半に彼らが南方に冒険すると、ハワイアンスケールの大波に遭遇。現代からすれば無謀としか思えない、リーシュのない粗野なサーフボードで巨大な波に挑んでいった。冷水は容赦なく体温を奪う。が、もちろんウエットスーツなどない時代。農民や漁師だけが暮らす、孤独で風が吹きすさぶ荒涼とした海岸に、彼らは通うようになった。
のちにオーストラリアのサーフィンが盛んな州では、各地で全豪選手権が開催されていった。だが、マーガレットリバーでは1969年まで開催されることはなかった。これは、西オーストラリアのサーファーたちが、マーガレットリバーを暴露されないよう反抗したため。彼らは、ハワイアンがノースショアの波を略奪されたのは、公になってしまったことが原因と見ていた。
そうしたなか、当時パースに住んでいたイアン・カーンズ(後のアメリカ国際コーチ)がマーガレットリバーでこっそり大波を味わい、1973年のハワイでのスミノフ・プロアマで優勝するなど、地元のコンペティション熱が上昇。やがてミッチー・ソーソンやデイブ・マコーレイ、ポール&ジェイク・パターソン、タジ・バロウら才能あるサーファーがシーンで台頭すると、徐々に開放されていった。
80年代から90年代にかけては、プロツアーの定番の開催地に。一時期QSイベントに縮小するも、マーガレットリバーでのサーフィン大会で薬物撲滅を訴求しようと政府が音頭を取ってCTを再開。が、過去のコンテスト期間中も含めてたびたび目撃されたシャークアタックに焦点があたり、選手のあいだにも不穏な空気が流れた。それでもなお、サーフィンによる経済効果がこのエリアを包み、また、ワールドクラスのワイナリーもあることから、多くのプロサーファーにとって愛すべき開催地になっている。ハワイ同様、海のなかでの混雑は避けらない。しかし、リラックスした雰囲気とワイン・テイスティングを兼ねたヘビーウォーター・アドベンチャーを楽しめると評価は高い。
ビッグスウェルと岩棚がつくる荘厳な波。
西オーストラリアのマーガレットリバー地域は、オーストラリアのなかでもコンスタントに波があることで有名。しかもグランドスウェルが入りやすく、チャレンジングなリーフブレイクも多数ある。ここではCTの会場に絞り込んで紐解いてみたい。
◉マーガレットリバー・メインブレイク(本会場)
マーガレットリバーのメインブレイクは深水からのうねりが岩棚にあたってピークになる波質。それだけにパワーがあり、巻かれたときの罰に耐えられるだけの高度な判断力と鍛え抜かれた身体、遠泳力が求められる。が、その分メイクできればほんとうに素晴らしいことを実感する。グーフィー、レギュラーどちらのスタンスのサーファーにとっても、6〜8フィートクラスの波に乗ることができれば、何十年ものあいだ脳裏で輝き続ける。
セットが来たらうねりに合わせて機敏にパドリングを始めよう。そう。ビジターのあなたが、だ。ベストのポジションで方向を変えて、この場所でのサーフィンでもっとも最高な瞬間、サーファーとしてこれまでに感じたことのないテイクオフを体験するんだ。
落下するのはヘビーに見えるし、壁も長そうに見えるだろう。が、ここは迷いを捨てて身を投じよう。6〜8フィートサイズあれば、ボトムに到達するまでにものすごい快感を得られるし、面の硬い波で最高にスムーズなラインと、高速のターンを経験することができる。たとえオンショアが吹いていても、だ。幸運であれば、そのままインサイドまで乗り継ぐことも可能。
ナーバスに感じたならそれもOK。落ち着いて座って、何が起こっているのかじっくり見てみよう。もし混雑がひどいなら、ローカルクルーが見向きもしない小さいやつに乗ればいい。けれど、セットを食らう覚悟は必要。ジタバタしない。荘厳な波だけど、死に至らせはしない。
ライトの波については、駐車場からひと目見ることでヒントをくれる:インサイドのドライリーフに近づきすぎるなよ、と。プルアウトしたときに、うしろにセットが入っていると、やっかいになるぞ、と。
また、奥だけではなくエンドセクションもとてもファンな波だ。リーフ沿いにスープに向かってカットバックし続ければ、沖でできないホットなターンを交えつつ100m以上乗ることができる。
うわべや見せかけだけのサーファーはすぐにバレてしまう。1年を通じてこの波でサーフィンするローカルに敬意を持ち、自分のところにセットが入ったら臆することなく突っ込む姿を見せよう。パドルバックしたときに少しだけ認められているかもしれない。
◉ザ・ボックス(バックアップ会場)
オーストラリアでもっとも悪名高き肉厚の波、ザ・ボックス。信じられないくらいに気まぐれで、もはや馬鹿だとしか言いようのない危険なときもある。が、ひと度ブルーの洞窟に入ってしまったら、他のいかなる場所でのサーフィンとは比較にならない経験になる。短く、鋭く、力強い波はマインドを圧倒し、心酔させてしまう。
ザ・ボックスでのサーフィンはやっかいだ。いろんな方向からのうねりや風に対応するが、南西〜西のうねりと北東からの風、そこの上げ潮の時間帯が加わると、比較的やさしい波になる。
ときとして激昂しているように見えることもある。しかし、同時に完璧にも見える。いいライドを決めたら言いようのない放心状態が数秒続く。分厚いリーフはサーファーに簡単にケガを負わせるし、強烈なオフショアが試練になることもある。オーストラリアでいちばん危険とは言わないが、リストの上位に入ることは確かだ。
ベストなザ・ボックスは6〜8フィートの、上げ潮の早い時間帯。午後にそれがハマると陽の光と蒼空の海のバランスでものすごい景色になる。
最高のライディングを表現するなら、まずはやさしいテイクオフから最初のセクションでバレルイン。あまり深く入りすぎずステイし、チャンネルでスピットともに出てくるという流れ。基本的に最後のセクションでは、ボイル(気泡)を発生させる危険な岩を避けることになる。でも、これをメイクしたら最高の気分になれる。
◉ノースポイント(バックアップ)
おそらくこの場所の写真を見たことがあるだろう。この地域でもっともフォトジェニックなスポットのひとつがノースポイントだ。フォトグラファーたちが岩のうえ、あるいは水中のチャネルでレンズの構え、プロサーファーたちはこれぞというショットを残すため、マーガレットやバッセルトンの街にある病院に行くことも覚悟で、危険なセクションに突っ込んでいくシュートアウトの舞台だ。
タジ・バロウでさえ、この波の餌食になったことがある。彼はここで、8フィートクラスのときに真っ逆さまに落ちる最悪のワイプアウトをし、岩に頭を叩きつけ、頭蓋骨がむき出しになり、縫合手術が必要になった。
にもかかわらず、ノースポイントにスイッチが入ったときには、パースからシリアスな挑戦者たちがクルマを走らせてやってくる。
ここには2つセクションがある。テイクオフがやさしいアウトサイド・ピットと、その後シャローになるインサイド・セクションだ。ともにメイクするには相当な技術が必要。
シリアスで優れたサーファーは、奥深くからテイクオフしてハイラインを駆け抜け、西オーストラリア屈指のヘビーなバレルに包まれていく。安全なテイクオフ・ポジションのサーファーたちは、そのラインを邪魔しないよう避けるために大いに巻かれる。
リスクを負いたくない? それなら混雑に参加してアクションをエンジョイしよう。ここに入っているサーファーは、みんなノースポイントの波を愛しているし、自分だけのものにしようなどという考えを持ち合わせない人たちだ。
【レベル適正】上級者(3スポットとも)
【ボトム】
●マーガレット・メイン:深いリーフ
●ザ・ボックス:容赦ない岩棚
●ノースポイント:容赦ない岩棚
【ベストサイズ】
●マーガレット・メイン:4〜20フィート
●ザ・ボックス:4〜8フィート
●ノースポイント:4〜8フィート
【スウェル】
●マーガレット・メイン:南西〜西
●ザ・ボックス:南〜西
●ノースポイント:西〜北西
【風向】
●マーガレット・メイン:東
●ザ・ボックス:東
●ノースポイント:南東〜東
【潮回り】
●マーガレット・メイン:ロー〜ハイタイド
●ザ・ボックス:ハイタイド
●ノースポイント:ミッド〜ハイタイド
【うねり】
西オーストラリアはインドネシアと同じうねりが入る。インドネシア同様クリーンなことも多く、不規則ではあるもののサイズ的にはこちらのほうがずっと大きい。とくに冬は猛烈なオンショアが吹き荒れ、巨大なクローズアウトになることも。そのクラスの波をホールドするポイントでは6〜20フィートでのサーフィンが期待できる。秋から冬にかけての季節の変わり目は4〜12フィート級の日が多く、通年できるこのエリアのなかでもベストと言える。とはいえ夏でもめったにフラットになることはなく、2〜8フィートの波でサーフィンできる。
【風】
西オーストラリアでもっとも重要になるのが風だ。強い南〜南西の風に悩まされることが多い。晩夏〜秋のあいだは南東〜東の風が期待できるが、安定はしていない。オーストラリア大陸の南西に高気圧があるときは、朝にはオフショアが吹く。ただ、午後にはフリーマントル・ドクターと呼ばれる海風が吹いて面を荒らしてしまう。
参考:STORMRIDER SURF(英字)
書籍購入:AMAZON(英語版)
*ちなみに現在、『ザ・ワールド・ストームライダーズ・ガイド』の制作チームが次作の発行に向けて絶賛締め切り中。『サーフクラブ』もほんの少しお手伝いしています。世界最高のサーファーズ・トラベルガイド、一家に1冊の必需品。ぜひお買い求めください。
最後にマーガレットリバー、ザ・ボックス、ノースポイントの理解を深めるのに役立つ映像を紹介しておきたい。レッドブルの『Sessions』シリーズが秀逸なので、すべてそこからのピック。ジャック・ロビンソン、ヤバし!
〈マーガレットリバー・メインブレイク〉
Title: Sessions – Western Australia’s Autumn Delight
Starring:
・Jacob Willcox
・Jay Davis
・Jerome Forrest
・Dave Delroy
・Jack Challis
・Voltaire Sora
Creator: Isaak Jones
〈ザ・ボックス〉
Title: No Contest – West Australia Episode 3
Starring:
・Adriano De Souza
・Caio Ibelli
・Jack Robinson
Creator: Jacob Wooden