【ビデオ】アンディの妻、リンディ・アイアンズの重すぎる語りは衝撃的!

今年の話題作をフルレビュー。

『アンディ・アイアンズ:神にキスされた人生』

ハワイの英雄、故アンディ・アイアンズと妻のリンディ。Photo: WSL / Kirstin

アンディ・アイアンズの内なる戦いを描いた今年話題の映画、『アンディ・アイアンズ:神にキスされた人生』。2010年11月2日、32歳の若さでこの世を去った3度のワールドチャンプの死因が明らかにされる本作品のワールド・プレミアが5月末から、ワンナイト上映を含む全米500ヵ所でスクリーニングの予定。それに先駆け、ロサンゼルス(5月2日)、ハワイ(5月6日)、ニューヨーク(5月10日)、の3ヵ所で近親者限定のプレミアイベントが行われる。映画の内容は予想以上に重く、悲しい。薬物撲滅の想いが込められた真実の物語を米国メディア『The Inertia』の発行人兼編集長のザック・ウェイズバーグがレビューする。

Text: zach weisberg

 

彼はわたしたちのコンドミニアムのなかに2ヶ月間こもったまま、

ただずっと座っていた。何もしゃべらずに。

わたしは叫び声をあげて、“オッケーかどうかだけ教えて!”とわめき散らした。

なんとかして彼を抜け出させたいから、どんなことでもやった。

でも、何も変わらない。

彼はいつもわたしにこう言っていた。“誰にも言わないでくれ”。

そしてわたしはスーパーマーケットのFOODLANDへ行き、

忌々しく思いながらも、何事もないように買い物をするの。

家にヘロインで亡骸(なきがら)になった夫がいるというのに。

–リンディ・アイアンズ

「人は皆、誰かのことを非難したがるものなんだ」
ブルース・アイアンズがそう話す。

彼が座っているのは、明かりのない部屋。ドラマチックな照明が顔を照らし、額にはビーズのような小さい汗の水玉が浮き上がっている。壁には、ブライアン・ビールマンが撮った遺影が。波が崩れる真下にサーフボードを沈めて、アンディ自らも水中に潜りキメのポーズをしている構図だ。額装はされていない。が、それはまた象徴的でもある。

「やつらはオレたち兄弟が、クソな薬物乱用モンスターであるという事実を受け入れたくないんだ。人は物事を都合よく情報操作し、捏造できる。それを信じようが信じまいが。薬物が絡む場合はとくにさ。クスリに手を出すと、ものすごく重い中毒がのしかかってくる。そのことを知っているから、オレも一線を引いていたし、兄貴も一線を引いていた」

流星のように飛んできて、やがて墜落した兄の悲劇の裏側について、ブルースが容赦なく明かす。

テキサスのホテルの1室でアンディが遺体で発見されてから8年近くが経った。死因は暗澹としていたが、本作『Andy Irons: Kissed By God』の配給元〈Teton Gravity〉で働くエニッヒ・ハリスにより、アンディの取り巻きがベールに包んできた真実が浮き彫りになった。エニッヒは元ビラボンのスタッフでアンディを担当。2人はジャクソンホールへスノーボードに出かけて親しくなった。アンディの死後、アイアンズ家がアンディのストーリーについて委託できるまでの間柄に。そこにはアンディの戦いを通じて、薬物依存症の苦痛と浄化の絶望を広く伝えたいという共通の想いがあった。

映画のキャストにはアンディとブルースに加え、海や陸でぶっきらぼうにハグするカウアイのサーフバディも出演。以前からアイアンズ兄弟の2人には、お互いに張り詰めた関係にあったという。当時のフッテージには、ブルースに対して「アンディのことは好きか?」と訊ねるインタビューがある。が、ブルースは答えることを拒んだ。もちろん、兄弟間のライバル意識もある。しかし、怒りと激しさを込めて断る裏にはダークな影を感じさせた。

暗い影の最初の兆候は、1999年に仮死状態になった衝撃的なエピソードからはじまる。ブルースおよびネーザン・フレッチャーによると、アンディが21歳のときに出かけたインドネシアの旅の際、ウイスキーを浴びるほど飲んだあとにモルヒネを吸引。その後、青く変色した。彼の肺が崩壊してしまったのだ。病院に搬送され、集中治療室で奇跡的に息を吹き返すまでの8分間、身体を真一文字にして横たわっていたという。

それから3年後の出来事について、ブルースは端的に添えた。
「兄貴はワールドタイトルを獲った・・・あの世から甦ってきて・・・」

手応えのあるライドをメイクした直後にエアライフルで撃ち抜く仕草。仕留めてやったり。Photo: WSL / Tostee

アンディはまた、感情の起伏や躁鬱とも戦っていた。心象風景(考えていることのイメージ)までを正式に診断したのかは不明。が、アンディの若い頃のサーフコーチ、デイブ・リデルは、初期の頃に精神疾患について話したことを認めている。
「その病気については聞いていた。しばらくは投薬していたんだ。でも、まもなく止めてしまった。アンディは前に、投薬は好きじゃないと話していたよ」

躁鬱の話と前後して、ハーバード医科大学の精神医学教授アンドリュー・ニーレンバーグ氏は、アンディの病気の症状と、それが生命に関わるかどうかについてざっくりと話している。

しかし、アンディの妻リンディが、感情の起伏や平衡失調、薬物、そしてなにより3度目のワールドタイトル獲得後の赤裸々な告白が、観るものに激しい苦痛をもたらす。

「彼は自分をまわりから完全に遮断していた。何をしていたのかわかならい。彼はわたしたちのコンドミニアムのなかに2ヶ月間こもったまま、ただずっと座っていた。何もしゃべらずに。わたしは叫び声をあげて、“オッケーかどうかだけ教えて!”とわめき散らした。なんとかして彼を抜け出させたいと、どんなことでもやった。でも、何も変わらない。一度だけ家を離れたことがあった。でも、そのときはほんとうに怖かった。シーツも毛布もないマットレスのうえで、かろうじて生きている姿を見つけたこともある。彼はいつもわたしにこう言っていた。“誰にも言わないでくれ”。そしてわたしはスーパーマーケットの〈フードランド〉へ行き、忌々しく思いながらも、何事もないように買い物をするの。わたしにはヘロインで亡骸になった夫がいるというのに。いま思えば、彼を守っているようで、守っていなかった。彼の欲するままにしてあげたということがね」

フィルムには、2人が結婚式を挙げた直後の3日間、アンディーが行方不明になったことも描かれている。

「リンディが結婚したあと、電話をかけてきたんだ」とサニー・ガルシア。「彼が失踪した。結婚式の直後に・・・それで彼が手に負えない状態だったことを知らされた」

アンディは2007年のチリでのリップカールプロに優勝した。が、コカインでハイになった状態を抑制する、専門の治療施設による処方薬を服用したことはその年までなかった。

「兄貴はすべてのイベントに対して疲れ切っていた」とブルース。「かろうじて時間どおりヒートを戦い、戻ってきて仲間たちとハイファイブをし、バッグと一緒にしてあるウェットスーツのステッカーにもハイファイブをするんだ。コカインでハイになっては大会で優勝し、錠剤を飲むことを繰り返していた。それが大したことではないように。初戦や最終戦関係なく、ハイになっては勝っていた」

手首側が外に向くハンドムーブがAIスタイル。厚いフェイスでもアクセル全開、レイバックで舞い散るスプレーの量は半端じゃなかった。Photo: WSL / Tostee

ブルースとアンディは、勝利のあとに2人で薬物を服用していたという。そして、アンディはブルースに恐ろしいことを話していた:「オレがインドネシアで8分間、死んでいたことを覚えているか? あの世から自分の遺体を見たとき、現実の世界や自分の身体がどれだけ嫌だったことか。ホントは戻ってきたくなかったんだ」

家に戻ったあと、ビラボンの経営陣はマリブでリハビリ治療をする約束を求めた。

「一度錠剤に手を出したら、錠剤の投与から抜け出すことは難しい」とブルース。「兄貴はそれに蝕まれた。オレたちの多くの知り合いも蝕んだ。たくさんの人間を崩壊させたんだ」

「みんな自分なりの中毒問題を抱えていた。タンスの影に薬物ケースを隠していたのが、やがて重度の中毒患者に変わっていく。パインツリーに行けばそれがわかった。彼らは普段と同じじゃないから」

映画は2000年代はじめに製薬会社が推進した、陶酔作用のある化合薬物〈オピオイド〉についても触れている。躁鬱の薬と結合し、最悪は死を招く組み合わせになる可能性もある。しかし、アンディを失墜させているダークな力を鎮静させる唯一の薬なら、服用したほうがいいとも考えられる。

残りの物語も悲しく、そして詳しく語られていく。

 

家族や親友にとって愛おしい男の、生々しく悲しい物語。

家族の心のなかにはいつまでも生き続ける。妻のリンディと弟のブルース。下は愛息のアクセル。Photo: WSL / Kirstin
亡くなった翌日のコンテストの会場でしめやかに行われた追悼セレモニーの様子。Photo: WSL / CESTARI
アンディの象徴といえばライジングサン。写真は2014年のパイプマスターズの“Most Committed Performer”受賞者のPhoto: WSL

鑑賞を終えたぼくは、ブレッド・メレキアンが寄稿した2010年の『アウトサイドマガジン』の記事を再読し、アンディの最期に関して新しい情報はわずかしかなく、誤報もあり、死後も長く記憶に残る文章であることを確かめた。この映画を観たいま、誰もが言いたがらない時期に記事化したことは称賛に値する(その価値を示すのが、メレキアンの記事の締めで使われている“Kissed by God”という言葉。映画の題名はこれを借用している)。ビラボンのプレスリリースがなぜ死因をデング熱にしたのかはいまも明らかにされていない。ただ、アンディの近親者が彼の直面している状況を踏まえて、死因をどう扱うのかを誰も準備していなかったことは明らかだ。確かな記録はない。当時妊娠8ヶ月だったリンディに、アンディの死が重なったからというのは理解できる。それは時間が必要だろう。

このことからの学びは、ぼくらはいつ死期に直面したときの準備をすべきか、ということ。

ひとつの家族、ひとりの弟、ひとりの妻、ひとりの母、緊密な友だちにとって、愛おしい男の生々しく痛ましい物語、それが『Andy Irons: Kissed By God』という映画だ。アンディは父親になるのに2ヶ月足りなかった。断腸の思いだっただろう。そして約8年後のいま、心のなかの創傷治療のために再び傷口を開ける。ブルースが話していたように、本能の責任にしてしまっては無駄死になってしまう。拒絶する人間は救うことはできない。けれど、同じように苦しむ、あるいは再起に挑戦したものの失敗してしまった多くの人に伝える責任から逃れることはできない。

アンディの物語をいい話にすることも、きちんとした結論を描くこともできない。いずれも違うからだ。人生は不公平で、痛みを伴う方向にもなり得る。そして、すべてを持っているように見せかけることもできる。が、惨めなだけだ。人生を棒に振ることだって可能。ぼくらは人生をどう生きるか選ぶことができるのだから。悲劇により盲目的になってしまったときに、痛みを理解し福祉活動をすることで、自分たちがより良くなれることを、この映画は教えてくれる。困難に立ち向かうことを示した作品。銃の銃身をにらむように、ほとんどのものを失った彼らの痛みや絶望を直視するような、つらい作品だ。この物語をシェアし、同じような局面にある人の進路を変える一助になることを望んでやまない。

Too fast to live, too young to die. Photo: WSL / Kirstin

Note: It was originally published on The Inertia

 

トレーラーは以下からご覧ください。

配給元:Teton Gravity Research